短編1
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猫踊りの夜

淀の城下にある清養院という寺の住職が、下痢を患い、便所通いをしていたときのことだ。

晩になって便所に行こうとすると、縁側のくぐり戸を叩いて、

「これ、これ」

と呼ぶ声が聞こえる。

すると、火燵(こたつ)の上にいた、もう七八年も寺で飼っている猫が走ってきて、戸の掛け金を外した。そして、外から大猫を一匹入れると、また掛け金をかけ、火燵の上に伴った。

「今夜、納屋町で猫踊りの会がある。一緒に行こう思て、誘いにきたんや」

「それがな、ここんとこ和尚さんの腹具合が悪い。おれ、看病せなあかんから……」

「しゃあないなあ。ほなら、手拭い貸してんか」

「手拭いは和尚さんのやがな。使いはるから、勝手に貸されへんよ」

「あかんか」

「うん。すまんけどなぁ」

話が終わると大猫を送り帰し、元どおり掛け金をかけた。

住職は、一部始終を見たうえで、近寄って猫を撫でてやり、

「わしの心配なら、せんでもかまわん。早くおまえも踊りに行くがよい。手拭いもやるぞ」

と言いきかせた。

猫はその場を走り去り、再び戻らなかったという。

怖い話投稿:ホラーテラー 翁さん  

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