中編4
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雨月の晩に

私事で恐縮ですが。

夜中に目が覚めてしまった。

オレンジの電球が3つか4つくらい重なってぼんやりング状態。

午前三時くらいだろうか?

国道沿いのボロアパートに住んでいたので、昼夜問わず車の騒音が酷い。

この日は一日中雨で、時々通る車から

シャーーーーーッ

っと水を弾く音がしていた。

少し時間がたって、ウトウトしていると。

遠くの方で緊急自動車らしき?サイレンが木霊しているのに気付いた。

ワーーーワーーーーワーーーー

何のサイレンなのか聞いたこともなかった。

まあ色んな車があって、何が何処でどうなったにせよ、こんな時間に大変だぁ。

どんどんでてこいはたらくくるーまー♪

そんな事を思いながら、段々段々と近づいてくるサイレンに耳を傾けていた。

サイレンは確実にこちらへ近づき、どんどん大きくなっいく。

こうなると意味もなくワクワクしてしまう。

とうとう緊急自動車はアパートの前に差し掛かり、タイヤの音がシャーーっと近づいて

ヴァーヴァーーーヴァーーーー!

とやかましいサイレンと、微かな震動を感じた…

途端。

ふっと音が止んだ。

ただシーンとするだけ。

正直驚いた。

さっきから聞いていたサイレンが、まさか家の前で止まるなんて思いもしなかった。

それでなぜか…

直感的に火事だと思った。

季節はようやく彼岸入りした9月で、

寒い→暖房→ほこり→引火!!

ボボボーボ・ボーボボ!!

全然あり得る話だった。

それで外の様子が気になって寝つけそうも無かったし、もしも火事なら危険なのでとりあえず外に出てみた。

真っ先に見えると思った赤い警光ランプが何処にも見当たらない。

何の車両なのかも分からないのに、そんなランプ探しても仕方がなかった。

それにしても人影は無く辺りは真っ暗で、何事もなかったかの様に静かだった。

おかしいなぁ。

そう思った時だった。

コッ……コッ!コッ…コッ!

何かを喉に詰らせて吐き出そうとする時の、あの音がすぐ斜め後ろから聞こえた。

コッ…ッ…コッ…ァ…ッ…カッ!

カッ!…ッ……カァ!…ァ!

振り向くと寝巻きを着た老人が目をMAXに見開き、口をOの字にとがらせ、ゲッツしていた。

カッ!…ッ……カァ!

死ぬ程驚いてるのに、声も出ないし体も動かなかった。

コッ…!コッ…!

と言いながら老人はこちらに近づく。

真っ黒な口の中に自然と視線は吸い込まれて。

そして次の瞬間。

ポコッ!!

と、かなり軽快な音と共に、老人の口から白い酸が飛び出して、顔にへばりついた。

右目が見えない。

正直死んだと思った。

でも生きていた。

そして臭い!!

慌てて顔を拭い払うと、ソレが地面に落ちた。

自分の目玉だった。

わあああああああ!!

痛みも感じない程に肉が溶けて異臭を放ち、転げ落ちた目玉がだらしなく地面にへばり付いて…

いる?

いや、違う。

両目できちんとソレは見えていた。

ツヤツヤのピンポン玉くらいのおだんごが地面に落ちていた。

気が付くと老人はいなくなっていた。

ダンゴだ。

思わず呟いた。

すると、今度は頭が割れるかと思うくらい甲高い電子音が響いた。

ピロリロ~ンッ!!!

おだんごっ正解!!

と言わんばかりに物凄い音で、たて続けにもう一丁!

ピロリロ~ンッ!!!

とにかく凄い音。

耳の奥を刺すように響くその音に思わず耳を塞いだ。

ヒダリヘッマガリマスッ!

ゴチュウイックダサイッ!

ピロリロ~ンッ!!!

その音は頭の中で鳴っているようで、耳を塞いでも何の効果が無く、抵抗する手立てがなかった。

ピロリピーーンッ!!!

あ゛ぁ!まただ!どんどん音は大きくなってキンキン響く金属がかった音に変わっていく。

ヴァヴァへッマガリマスッ!

ヴァチュウイッヴァダサイッ!

来る来る来る来る!!

ピビピピーーッ!!!!

あ゛あ゛!!駄目だ!この音をもう一度聞いたら頭が壊れる!

そう思って、しゃがみこんで思い切り踏ん張った。

ヴァヴァヴァヘッヴァガリマスッ!

ヴァヴァーヴァッヴァダサイッ!

!!

うあ゛あ゛ぁぁ!!

あ゛あ゛あぁぁぁ!!!!

あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!!!

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!!!

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!!!

あぁ~

あ?

いつの間にか出していた大声が自分のものだけと気付くのに時間がかかった。

とっくに音は止んでいた。

あっやべっ。

あんな大声で叫んだのは産まれて初めてで、大声コンテストなら確実に優勝できただろうし、さっきの音や老人も謎過ぎて訳わかんない大賞受賞だろうけど。

今もらうなら。

深夜に一番やってはいけない事を早い段階で気付ける自分で良かったで賞だ。

通報されたに違いないし、ヤバいと思った。

見回すと自分の大声で近所中の明かりが一つ、また一つとついていくのが分かった。

部屋に駆け込み布団に潜り込んで十数分後、遠くからサイレンが木霊して近づいて来るのが分かった。

ああヤバイ、ああヤバイ。

忘れはしない薄曇りの、十五夜の出来事だった。

おわり。

怖い話投稿:ホラーテラー ハミーポッポーさん  

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