中編7
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クレーター

従姉妹のA子が大学のときに体験したやるせない話です。

長文で申し訳ありません。

今から5年ほど前のお話。

彼女が大学4年の冬休みに、同じ大学の友人B子と2人で二泊三日の海外旅行へ行くことにした。

旅行の目的はグルメにエステにショッピングと…専ら女性が喜びそうなものばかり。

大学生協で申し込んだ格安のツアーは、日程のほとんどがフリープランというものだった。

それでも貧乏学生だった彼女たちは、地元の人が行くような安い食堂や、あきらかに偽物のブランド品が並ぶ露店を巡っては、安上がりな2人だけのツアーを楽しんだ。

しかし、「せっかく来たのだから大学生活最後の思い出に、思いっきり贅沢しよう!」ということで最終日に、その街で有名な高級エステ店に行くことにした。

当日の朝、そのお店に電話して(A子がその国の言葉に精通していた)、運よく予約を取ることができた。

昼過ぎにお店に行き、受付でコースの説明と料金表を呈示されたが、さすが高級店とだけあって、どれも相場のはるか上をいく値段。

どうやらそこは、元整形外科医のスタッフもいるという、超一流のお店だったようだ。

友人と日本語でこそこそと

「どうするー…?」

「でもここまで来て、帰るのも恥ずかしいよー…。」

と相談していると、受付の女性が紙にサラサラっと何か書いて、それを示しながらA子に話しかけてきた。

B「何て言ってるの??」

A「や、何か特別に格安のコースを用意してくれるって。

1時間でだいたい3万円くらいだって。

…どうする??」

B「まぁ…。他のと比べたらだいぶ安いね。

よし!それでお願いしちゃお!!」

それまで散々バカ高い料金表を見せられ、金銭感覚が少し麻痺していた彼女たちは二つ返事でその格安(?)コースをお願いした。

……安いものには、ワケがあるというのを、後で嫌と言うほど思い知らされることになった…。

その後、受付で【同意書】みたいなものにサインさせられ(当店でトラブル等あっても、補償は一切しません!的なやつ)、バスローブに着替えさせられた。

そして彼女たちが通された部屋は…高級感溢れるフロントや待合ロビーとはうって変わった、簡素で埃くさい部屋だった。

マシーン等は何もなく、申し訳程度に、小さなワゴン(美容院とかによくあるやつ)が1つあるだけ。

ワゴンには、タオルや乳液、泥のようなものや薬草のようなもの、大量の唐辛子などが乱雑に並べられていた。

部屋の広さは10畳ほどだろうか。

壁はクリーム色だが、湿気が多いせいか、ところどころ黒カビの跡が目立つ。

中央に薄緑色のベッドが3台並んでいて、頭を乗せる部分にはポッカリ穴が空いている。

さっきまでいた空間と、ドア1枚隔てた別世界だった。

B「うわ…。大丈夫?これ。」

A「大丈夫、大丈夫!何も心配することないよ!

……ってお店の人は言ってるけどね。(苦笑)」

B「…まぁ、3万も払ってるし、有名なお店だしね…。」

不安はあったが、高級エステという肩書きを信じ、A子とB子で隣同士のベッドに寝た。

エステは、まず人の手によるリンパマッサージから始まり、それは今まで味わったことのない気持ち良いものだったらしい。。

顔にスチームを当てられ、最後はパックをして放置された。

部屋に2人残された彼女たちは、それまで遠慮して閉じていた口を思う存分解放し、お喋りに夢中になった。

A「やっばー。めちゃめちゃ気持ち良かったー。」

B「うん。最初入ったときはちょっとびっくりしたけど…あの手つきは神だわ。(笑)」

他愛もないお喋りに花を咲かせている彼女たちに、異変は徐々に忍び寄ってきた。

まず部屋中に白っぽいもやが充満し、それとともに激しい悪寒が2人を襲ってきた。

A「…ねー。何か体がゾクゾクしてきたんだけど。」

B「マジ?てか私も。

 何か寒イボとか立ってきたし。(笑)

 これ何?空調でも壊れた?」

リンパマッサージやスチームで、それまでポカポカしていた体を急激な寒気が襲う。

今や全身に鳥肌が立ち、体がだんだん痺れてきた気もする。

そして第2の異変。

幻聴が2人を襲う。

B「ちょっ…。何この声?!

 子供の声?

 てか、どこの国の言葉よ?」

ボソボソと話す、複数の子供の声が聞こえる。

何か色々な国の言葉が入り交じっており、内容はよく分からない。

A「…これ…。この国の言葉だ。

 ちょっと待って。日本語の子もいるよ?」

『た…い…。』

『…痛い…。痛いよー…。』

『顔、やめて。

 痛い…返して…。』

という、恨めしい悲痛な声がだんだんと大きく、はっきりと聞き取れるようになった。

B「何何何?!

 ヤバい系?!

 ちょっ…無理!怖いって!」

パニックに陥るB子。

もう既に涙声だ。

A子はガチガチ震える奥歯をぎゅっと強く噛みしめ、何とか落ち着こうと努力する。

体はもはや全身痺れており、身動きが取れない。

そこに追い討ちをかけるモノが姿を現した。

白いもやからたくさんの子供が徐々に姿を現し、2人のベッドの周りを囲みだした。

そして恨めしそうに彼女たちを見つめている。

やや背の高い子供は、彼女らの頭側に立ち、ジーッと顔を覗きこんでいる。

そして子供たちの顔は…ところどころ切り裂かれ、特に頬の大部分の皮膚が剥がされていた。

頬の下からは黄色い脂肪があらわになっており、そこから血と脂肪が混ざった、赤い油のような液体がポトポト滴り落ちている。

背の高い子供の頬には、筋組織もうっすらと見えており、たまにピクピク痙攣している。

理科室にある人体の標本で見たような光景だが、もっとぐちゃぐちゃで、その子が顔を動かすたび、どす黒い血の塊と、ピンク色の筋肉と、白っぽい脂肪とが生々しく、艶っぽく揺れている。

B「ひゃっ…!やっ…!

 ぐっ…!」

B子が悲鳴を上げそうになるが、その前に子供たちの小さな、痩せ細った手がB子の口をふさぐ。

いや、口たちではない。

顔を割かれた子供たちは、A子とB子の顔をペタペタと、その小さな血まみれの手で撫で回しだした。

何か訳のわからない言葉の洪水が、耳をふさぐ。

鼻と口をふさがれ、苦しくなり、(このまま死ぬのか…。)と絶望しながら2人は意識を失った。

目を覚ますと、担当のお姉さんがニコニコしながら覗きこんでいた。

「大丈夫ですか?

 お2人とも気持ちよさそうに眠ってましたね。」

と言う。

(夢?いや、でもB子も確か同じ体験をしてたはず…。)

A子がボーッとする頭を持ち上げて、B子の方を見ると、ちょうど彼女と目があった。

2人同時に驚いた顔で目を見開く。

AB「何その顔!!」

泥パックは既に丁寧に拭き取られていたようだ。

その彼女たちの顔中を、ニキビのような吹き出物が一面覆っていた。

A「ちょっと!これどういうことですか?!

 お肌がこんなに荒れてるんですけど!

B「てか、さっきたくさんの化け物に襲われたんだけど!

 何あれ!?」

すごい剣幕で噛みつく彼女たちに、お店のお姉さんはちょっと困った笑顔を作り、

「あー、そのブツブツは明日になったらキレイに取れて、前以上の美しい肌になります。

 化け物?何のことか分かりませんが…お2人とも気持ち良さそうに寝てたので、夢でしょう。」

と説明した。

とりあえずこんなところで揉めて、帰りの集合時間に遅れるのも困るので、彼女たちは腑に落ちないながらも、その場はしぶしぶ引き下がった。(これ以上変な言いがかりをつけると訴えるとも言われたらしい。)

そして帰国後。

一向に吹き出物が治らない2人は、皮膚科とお祓い両方に通って、何とか肌は落ち着いた。(どちらの効果か分からないが。)

お祓いでは、「低級霊がいくつか憑いている」と言われただけだった。

しばらくして、A子がネットでその国の掲示板を調べていると、恐ろしい噂を目にした。

そう遠くない昔の話、あのエステ店では、VIPの客に向けて、子供の肌を移植する施術を行っていたらしい。

老化が目立つ肌に、子供のお尻や頬の皮膚を移植していたと言うのだ。

中には有名な芸能人なども顧客にいたという。

あの店は元々、暴力団(?)とも繋がっていて、臓器目当てで人身売買された子供たちの、外側を売ってもらっていたらしい。

今もその恐ろしい施術が行われているかは謎だが、どうやら2人が通された部屋が、その曰く付きの手術室だったに違いない。

お金を出ししぶる一見の客や、人の良さそうな外国人には、設備を使うのが勿体ないので、安い料金(適当にその場で決めるらしい)で、その部屋が使われるらしい。

彼女たちが見た、あの顔を剥がされた子供たちは、その部屋に縛られている霊なので、店外まではついてこないが、それでも霊傷のよなものは残るという。

「今から思うと、あの部屋のワゴンに乗ってた大量の唐辛子。

 あれって、あの国では魔除けに使われるものだったのよねー。

 気づけば良かったわー。」

あっけらかんと話すA子の顔には、可哀想なことに、まだうっすらとクレーター跡が残っている…。

かならずしも本当の話かはわかりませ

ん。

この国がどこかは、ここで書きませんが

くれぐれも海外エステにはご注意ください。

怖い話投稿:ホラーテラー 海星さん  

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