中編4
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哭く

小学校からのツレの『健』に誘われ車に乗ったのは夜の10時もまわってた頃…。

意外と遠くに来たもんだぁー…なんて事を考えながら、国道と呼ぶにはお粗末な道から県道、そして林道っぽい道に入ったのは午前0時を過ぎていた。

今回の目的は『場所』らしい。

健「泣いてるらしいんだ…。」

俺「幽霊か何かがか?」

健「よく分からんが土地なのかな?そこの場所行けば聞こえるみたい。」

俺「ホーホー…。」

土地が泣く…意味が分からず色々な事を想像してゾクゾクしながら、ぎりぎりアスファルトと呼べる道を進むと、ジャリ道になった時『行き止まり』と示すかのように、チェーンが先に進む道を遮っていた。

俺「間違えたか?…Uターンできっかなぁ…。」

下手くそな運転で何度も切り返し、なんとか元来た道に車の鼻先を向けることができた時、心の中で『軽自動車バンザイ!』と手を叩いた。

健「やっぱりこの道っぽいなぁ…。よし、歩くか!」

健はそう言うと車を降りチェーンを跨ぐと、『早く来いっ!』と、言わんばかりに懐中電灯をぶんぶん振り回している。

『この暗闇を進むのはちょっと腰が引けますな…。』なんて事を考えながら、健に次いでチェーンを跨ぎ奥に入っていく。

一応車も通っているんだろうか…轍を50m程歩いていくと空が開けた場所に出た。

健「やっぱココであってたな…目印の廃屋だ。」

健がライトを照らす方に目をやると、廃屋というより何に使っていたか分からないような“ほったて小屋”が目に入った。

「リーン…リーン…」と虫の鳴く声…廃屋があろうが無かろうが、俺は目的の場所がココなのだと確信した。

「おぉーん……おぉーん……」

廃屋のさらに奥の暗闇の中から異様な『声』のようなモノが、虫の声に混じって聞こえてくる。

それは“鳴く”でもなければ“泣く”でもない。

あえていうなら“哭く”が一番似合う。

健も聞こえてるんだろう…「あっちだな。」と言って、廃屋の向こうに歩いて行った。俺も離れまいと思い健の後に続く。

本当に土地が哭いているようだ。

少し開けた場所の地面の下から響くような声が聞こえる感じ…気味が悪い。よく見るとゴロゴロと石が地面から顔を出し、間から草が生えている。

あちらこちらにライトをあて辺りを見渡すが、これといって変わったトコロが見当たらない。

しばらくすると健はちょうど良さげな石に腰を下ろして何やら考えている。

そんな健を余所に俺は声の正体を探ろうと地面とにらめっこ…どうにもこの土地全体から聞こえてしかたがないが、さすがに地面に耳をあてるのは躊躇する。

ウロウロしていると、「なぁ…」と言う健の声が聞こえた。

『ドボッ!』

瞬間、地面の底が抜け左足が穴に喰われたかのような感覚…転けそうになりヨロけながらも、なんとか踏ん張った…が、何か引っ掛かったのか!?無理やり足を引き抜いた。

『なんだよ…!?』と、思いながらライトを穴に向けた。

『あれは…なんだ?』

穴の中にライトの光が入り何かが見えた。

健「…おい…コレって!?」

その言葉に思わず健にライトをあてると、ざらついた石の表面を手で触っている。

健「帰ろう!」

そう言うと健は足早に車の方に向かって行く。あまりにも急な展開に「ちょっと…待ってくれ!」と言いながら、置いていかれまいと健の後を追いかけた。

今だに哭きやまない声を背中で聞きながら「どうした!?…何?」と健に聞いた。

健「ありゃ…墓だ。」

俺「…あ?」

車まで足早に歩きながら、汗ばんだ体が冷たくなっていくのを感じた。

そういえばガキの頃、田舎にご先祖様の墓参りに行った時、墓場の片隅に土から顔を出す墓石があり、爺さんに「あれ何?」と、聞いたのを思い出した。

「土葬の頃、亡骸の入った桶に土をかけ墓石を置くと、土に喰われて腐った桶が重さに耐えきれず、墓石が桶の中に落ちるんだ。普通はそこから墓石を取って穴に土を詰め上に墓石を置くんだけどな…墓守りの居なくなった墓石はあーやって土に喰われたままになるんだよ。」

その時は「ふーん。」て思ってたくらいだったが…。

歩きながら『あそこの土から顔を出してた石の群れは墓石だったんだ。』と理解した。…ということは…『その下から聞こえてた声は…?』

墓守りのいなくなった墓達が嘆いているのか…それとも、自分達はココにいると気付いて欲しくて…。

どちらにしても俺達にはどうしようもできないなぁ。

車に乗り込みすぐに山を下りた。

健「俺が座ってた石な…表面は風化してか、随分ざらついてたけど、人工的だなって思ったんだよなぁ。…んで、触ってたら溝があったからなぞってみたら…名前だって気付いた。」

俺「…まじかー。」

さすがの健もあんなトコロに長居はできないようだ。

健「…それに康(ヤス:俺)が落ちた穴の奥な…何か見えたんだけど…そんな筈ないか…まぁ、俺の見間違いだよな…。」

な、なにを言い出すんだ…コイツは!?…やめろよ…怖いじゃねーか!

何かに足を掴まれたような感触したんだから…

いやいや、そんな筈ない…

きっと気のせいだ…

手の形に見える左足についた土も…穴の中に見えた顔も…

全部気のせい…

…と、いう事にしよう。

怖い話投稿:ホラーテラー 八百草さん  

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