中編4
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公園のベンチで

その日は休日で、暇を持て余した俺は散歩がてら近くの公園まで行く事にした。

そこはかなり大きな公園で、多くの家族連れや犬を散歩している人など、たくさんの人達で賑わっていた。

空は綺麗に晴れ渡り、少し涼しくなった風がとても心地いい。

しばらくの間 景色を楽しみながら歩き続けた俺は、軽い疲れを感じ 休憩できる場所を探す事にした。

しかし人が多い分ベンチはほぼ満席状態というか、空いていても荷物などが置かれ 座れる場所などない。

まぁ、いいか。

公園内は 舗装された小道以外は芝生が敷き詰められていて、そこに座り休んでいる人達も多い。

俺も適当な場所を探し、そこに座ればいいやと思った。

しかし芝生の上に腰を下ろしてすぐに、向かい側の大きな木のすぐ近くにベンチが空いている事に気がついた。

荷物なども置かれていない。

そこは木々に囲まれていて目立たない場所であったが、灰皿もきちんと設置されていて それを見つけた俺は他の人にとられないうちに、とベンチへ急いだ。

近くに行ってみると なるほど、他の人がここに座らない理由がわかった。

他のベンチから比べるとこのベンチは格段に古く、ペンキは剥がれ、所々に鳥の落とし物の跡などもあった。

しかも水捌けが悪いのか、足元には水溜まりまであった。

だけど座れない程ではない。

よければ十分に休めるスペースはある。

そう思った俺はそのベンチに座り、取り出した煙草をくわえ火をつけた。

一息つくと、どこかの家族が揃いの自転車で、楽しそうに走って行くのが見えた。

そういえば、ここは自転車の貸し出しもしていたはずだ。

公園内は広いから、サイクリングもいいかもしれないな……。

日頃の運動不足の解消にはうってつけだと考えた俺は、早速携帯を取り出し 公園名を書き込み検索してみた。

大きな公園なだけあって、それはすぐにヒットした。

えーと、自転車貸し出しの料金は……?

そのまま検索を続けようとしたが、日差しが邪魔をしてとにかく携帯の画面が見づらい。

文字を読みたくても、反射してしまいなかなか読む事ができない。

少し座る位置をずらせば、木陰に入り見やすくなるだろうが そちらに行くのはどうもためらわれた。

一度顔をあげ、再び携帯に目を向けた瞬間、俺の心臓がバクンと跳ね上がった。

携帯に俺の顔が写っている。

右手に持っている為、写っているのは俺の右半分の顔だ。

その隣に知らない人間の顔が、三分の一程写っていた。

まるで携帯を覗き込むように、しかし無表情のその顔は、俺の頬にくっつきそうなくらいに近かった。

有り得ない……。

その状態は、俺の肩に顎を乗せていなければならないはずだが、なんの重みも感じてはいなかった。

とたんに、キイィーーーンと高音の金属音のような耳鳴りがし、さっきまで聞こえていた人々の声や 子供達の騒がしい笑い声が遠退いていく。

耳の中に水が入ったような感覚がした。

手が震え、ジットリと汗ばんでくるが、携帯から目が離せない……。

恐怖からなのか金縛りにあったのかはわからないが、体を動かす事も出来なかった。

ずいぶん長いことその状態でいたように思えたが、時間にしてみれば2、3分だったかもしれない。

俺はある事に気がついた。

相変わらず体が動かせないはずなのに、手に持った携帯が徐々に右に傾き始めている。

俺の写った顔が消えていくにつれて、得体のしれない者の顔が もう半分近く写っていた。

い、嫌だ……!見たくない!

必死に抵抗するが、携帯の画面は少しずつそいつを写し出していく。

そして とうとうそいつの全部を見てしまった時、俺は一瞬意識が飛んだような気がした。

それの顔は半分しかなかった。

左半分だけ。

右半分は、まるで吹き飛ばされたかのように跡形もなかった。

そしてその体は、後ろの大木からまるで生えているかのように 上半身だけが伸びていた。

携帯を持つ手は尋常でないくらいに震え、歯の根は合わずガチガチと音を立てた。

叫び声を上げたくても 声は出ず、気絶する事もできずに ただその無表情な顔を俺は画面ごしに見ていた。

そしてそいつは突然、目をぐわっと見開き、ゆっくりと目玉を動かして俺を見た。

顔は前を向いたままで、目だけを動かし俺を見ている。

もう……限界だ……。

そう思った時、俺は左の足に鋭い痛みを感じ 唐突に立ち上がった。

足に、煙草の火種が落ちたのだ。

え?……あ、た、立てた……!

俺は、壊れかけのロボットのように ギクシャクと何歩か歩き、そこから脱兎のごとく走り たくさん人がいるとこまで逃げた。

そして友人を呼び出し、その日はそいつの家に泊めてもらった。

あれからしばらくたつが、これといって異常な事はなく、何事もなく過ごしている。

あれは一体なんだったのか……。

あの公園に何かいわくがあるとかは 聞いた事がない。

ただ俺にわかっているのは、もう あの公園には行く事はないという事。

そして、霊が出るのは夜中だけではない、という事だけだ。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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