短編2
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鈴の音がする―クロ―

俺はいつものように 玄関前の石段に腰を下ろした。

本当なら愛しい彼女(ハムスター)と一緒にひなたぼっこしたいところだが、彼女は部屋の中しか出歩けないから仕方ない。

俺は今日も、ここから通学中の子供達や忙しく歩いている人間を観察している。

一つあくびをした時、隣に座ってきた奴がいた。

俺が野良をしていた時からの仲間、虎柄のポウだ。

『おっす、クロ。相変わらずここから人間を見てんだな』

『まぁな。お前は散歩か?』

ポウは少し考えてから、ぽつりぽつりと話し始めた。

『ん〜…、散歩っていうか。

今日はお前に話しがあって来たんだ。

俺らが野良だった頃、寝ぐらに使ってた空き家あったろ?

覚えてるか?』

『……何番目の空き家だ?』

『ほら、あの赤い屋根のだよ。』

あぁ、と頷き 俺はその家を思い出した。

あの赤い屋根の家か……。

その頃の俺はまだほんの子供で、運良くその辺りを仕切っていたボス猫に気に入られ その空き家に招かれた。

死にかけてガリガリだった俺は、どうにか命をながらえたわけだ。

そこに このポウもいた。

『その空き家がどうしたって言うんだ?』

『うん。噂で聞いたんだけどな?そこに出るって言うんだ。』

『なにが?』

『幽霊が。』

俺は深くため息をついた。

『はぁ〜…。あのな、そんなの俺達猫には珍しいものでもないだろ?』

呆れたように俺が言うと、ポウは慌てて言った。

『それがただの霊ならな?俺が驚いたのは、それがあの女だって聞いたからだよ。』

『あの女?』

『そう、あの鈴の音の女だってさ。』

鈴の音の女……。

それはあの空き家に俺らがいた頃、毎日のように食い物を持ってきてくれてた人間の女だった。

いつも、彼女が歩くとチリチリと鈴の音がした。

だから俺達はその音が聞こえると、急いで彼女のもとへと集まったものだ。

とはいえ、俺らは皆 人間に酷い目にあった経験のある猫ばかりだったから、心を許す事はなかったが。

それでも、今俺達が生きているのは彼女のおかげだし、恩も感じている。

『行ってみないか?あの場所に。』

ポウに言われて 俺は頷いた。

『あぁ、行こう。俺達が暮らしたあの家に。』

歩いて行けば2、3日はかかるだろう。

家の者に 心配をかけるのはわかっている……。

しかし、俺とポウは後ろを振り返らずに歩き出した。

躊躇うなんてらしくないからな。

だって俺達は 猫なんだから……。

続きます

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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