中編3
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店員が参ります

折りたたみ式のテーブルが欲しいと思い、近所のホームセンターに行った。

家具の売り場でテーブルを物色していると、男の店員さんが息を切らして走り寄ってきた。

「お客様お待たせ致しました、何かございましたか?」

私は店員さんを呼んだ覚えはない。

せっかく来て貰ったのに申し訳ないと思いつつも、

「いえ、私じゃないですけど…」

と答えた。

店員さんは「他のお客様かなぁ…」と呟きながら、他の通路を一通り見た後いなくなった。

ふと見ると、天井から紐のようなものに繋がったボタンがぶら下がっている。

押すと店員さんが来てくれるボタン。

おそらくこれが誤作動したんだろう。

余り気にせずテーブルの入った箱をカートに入れた。

飼っていた金魚の餌を買いに今度はペットの売り場へ。

たまには赤虫でもあげようかなーと餌を選んでいると

ピンポーン

担当の方

ペット用品売り場までお願いします

顔を上げると、ここにも呼び出し用ボタンがある。

私はもちろん押すどころか、触れてもいない。

さっきと同じ店員さんが駆けつけて来てくれた。

「さっきもそうだったんですけど、私ボタン押していないんです。もしかしたら壊れてるかもしれないですよ。」

「そうですか。すみませんご迷惑おかけしまして…」

何となく気味の悪さを感じながらも、ボタンを手に取り首を傾げる店員さんを見守った。

そのうちもう一人女性の店員さんも駆けつけてきた。

ただの故障にしては、何となく二人の雰囲気がおかしい。

「こちらのお客様は押してないみたいです」

「元の方のランプもついていないんです、おかしいですよ、絶対」

「…………匿名でメールが来てましたけど、呼び出しボタンが………………………」

餌を選ぶフリをして、二人の会話に耳をそばだてた。

小声で語尾がよくわからない。

耳に神経を集中させていると、突然大きな音が耳に飛び込んできた。

ピンポーン

担当の方ペット用品の売り場までピンポーン

担当の方ペット用品

ピンポーン

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン

2人の店員さんは、まるで見えざる誰かが連打しているように大きく揺れるボタンを、呆然と眺めていた。

誰かもボタンを押すどころか、触れてもいない。

くねくねと大きく左右揺れたボタンは、やがてすぐそばの金魚の水槽にガツンと当たり、チャイムの音は止んだ。

異常を感じたのか、「店長」と書かれた名札をつけた男性が、顔を真っ青にして駆けつけてきた。

その男性に、事務室まで連れて行かれた。

深々と頭を下げられ、

「この度はご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした。」

とお詫びをされた。

私はこの男性はおろか、店の責任ではないと分かっていたので、かえって恐縮してしまった。

「ああいうことはよくあるんですか?」

などとは聞けず、男性に送られて店の裏口から外に出た。

男性は気を使って、車に荷物を積んでくれた。

背中を向けた店から、

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン

と、かすかにチャイムの音が聞こえてきたが、怖くて振り向くことは出来なかった。

あれから一度も、あの店には行っていない。

ああいった怪現象が起こるという話も、いわくつきの土地だという話も聞こえて来ない。

今でもあの店では、見えざる者がボタンを押して、店員さんを呼んでいるんだろうか。

店員さんは、この世のものでない人間と、普通のお客様との両方を相手にして働いているんだろうか。

店員さんたちが参ってしまわないことを祈るばかりだ。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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