昨年年越し旅行として、家族で日光へ行きました。
いろは坂をえんえん登って、山の上の旅館に宿泊するという旅です。
山の下の東照宮は大混雑でした。
しかし最近はいろは坂を登ってまで山に来る観光客は少ないようですね。
旅館も周辺の観光地も、ガランとしていました。
母の運転する車に乗って、どこか面白い場所はないかと当ても無いドライブをしていた時です。
中禅寺湖周辺を走っていると、山を切り崩して敷設された狭い道路の入り口に、
「この上展望台」
と書かれた看板を見つけました。
展望台から中禅寺湖を見下ろしたらさぞ綺麗だと思い、さっそく坂を登り始めました。
その坂は、いろは坂のような急カーブの多い、しかし眺めの良い道でした。
しかし、走れども走れども展望台どころか案内板もなく、上り坂も終わる気配がありません。
30分は登り続けていたでしょうか。
仕方なく私たちは諦め、Uターンして登ってきた道を下り始めました。
すると、窓の外に大きな池が見えました。
中禅寺湖かな?と思ったのですが、その大きな池は中禅寺湖のそれとは比べ物にならないような真っ青な水をたたえていて、とても美しいものでした。
中国の有名な観光地、九寨溝のような水です。
更に池を囲むように生える木々は、真冬なのに沢山の葉を茂らせていて、
その葉は真っ赤に紅葉していました。
冬の日光は寒々としていて、風景もどことなく暗いのです。
しかしその池の辺りはまるで別世界で、水の青ともみじの赤がものすごい存在感を放っていました。
池のほとりには豆粒のように小さくしか見えなかったのですが、何人かの人がいて、ゆっくりとほとりを歩いたり談笑している雰囲気なのが分かりました。
坂を下りたらその池に行こうと家族で話し、私はその池を見失わないように注意深く窓の外を睨んでいました。
すると、一台の対向車がやってきました。
坂に入ってから、他の車とすれ違うのははじめてだったので、私はすれ違う時に一瞬その車を見ました。
それからまたすぐに窓の外を見ました。
しかしさっきまで見えていたあの美しい池はなく、周りの風景と同じ寒々しい荒地が広がっているだけでした。
他に車がなかったので、ゆっくり走って確認したり、またUターンしながら探したのですが、とうとう池は見つかりませんでした。
旅館に戻り、仲居さんに池の事を聞いてみました。
しかしどうも要領を得ないという感じで、あまり相手にしてもらえませんでした。
中禅寺湖近くの山の上に展望台はあるが、車で10分も走れば駐車場に行けるはずだ、と言われました。
私たちは展望台への道を間違えてしまったのでしょうか。
一本道だったのでそれはないと思うのですが・・・。
真相は分かりませんが、今思い出した言葉で言うと、まるで桃源郷のような場所でした。
怖い話投稿:ホラーテラー 劣さん
作者怖話