短編2
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泉の女神さま

昔々のある日のこと、一人の木こりが森の中で木を切っていました。

木こりは斧を両手に高々と振り上げ、次々と樹木を切り倒してゆきます。

しかし、あるとても太い木を切ろうとした時でした。斧の刃が、木の幹にガッチリと食い込いこんでしまったのです。

斧は、ちょっとやそっとじゃ動こうとしませんでした。そこで木こりは幹を片足で押さえつけると、渾身の力を込めて、

「えいや!」

すると、食いこんでいた斧はようやく木から離れました。けれども、あんまり力を込め過ぎていたので、反動で斧は木こりの手をすっぽ抜けて、あらぬ方向へくるくると回転しながら飛んでいき、傍らにあった池にポチャンと音を立てて落ちてしまったのです。

「ああ、しまったな。……どうしよう」

 

木こりはすっかり困ってしまいました。あの斧が無いと仕事ができません。木こりは池の周りをオロオロしながら、ウロウロ歩きまわりました。

その時でした。

 

池がまばゆい光を放ち、水面にできた大きな波紋の中から、――脳天に樵の斧が刺さった――、それはそれは美しい女神さまが現れたのです。

 

木こりは、その姿をただ茫然と眺めていました。

 

女神さまの両手には、それぞれ金の斧と、銀の斧が握ってありました。

「あなたは、この池に、斧を落としましたね……?」

 

その声に木こりの身体が、びくり、と震えました。

「落としましたね」

 

微笑を湛えた口からもう一度同じ質問が滑り落ちましたが、木こりは震えて、答えることができませんでした。

「よろしい」

 

返事をしていないのに、女神さまはそう言いました。

「では。今ここに、金の斧と銀の斧と普通の斧があります」

木こりはぶるぶるぶると、さらに身体を震わして。顎から血を滴らせた女神さまは、ますますその口の端をにっこり歪めます。

「さあ、どれでかち割って欲しいですか?」

 

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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