中編2
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僕のお姫様 前半

物心ついた頃から、僕の趣味は料理を作ることでした。

「包丁握ってたらご機嫌なんだから~」

よく母親に言われたものです。

父親は大学に進学させたかったようですが、僕の夢は一流の料理人になる事ですから、やることは決まっていました。

まずは修行です。

京料理に興味のあった僕は、とりあえず京都で評判の良い店をグルメ雑誌などで探し出し、手当たり次第に電話しました。

しかし、どこも「今募集してないから」と、にべもなく断られます。

半ば諦めかけていた僕は、はなから絶対無理だと思って電話さえしなかった某一流料亭にダメ元で頼み込んだのです。

返事は意外なものでした。

「給料が3万円で良ければ来ていいよ」

ラッキーでした。少なくともその時は単純にそう思っていました。

「料理は盗んで覚えろ」

予想通りの言葉を板長にかけられ、僕も当然そのつもりでいたのですが、雑用に追われてそれどころではありません。

働き始めて半年が過ぎた頃でした。既に夜の11時を回っていたと思います。もちろん調理場には僕以外誰もいません。

自腹で買った魚を使って、きれいに捌いて美しく盛り付ける、そんな練習をしていた時のことです。

時折、視界の端に黒い物がちらちら入ってくるのです。

その度に

(なに?)

と視線を向けますが、そこには何もありません。

それを何回か続けているうちに、これは絶対に錯覚ではないと確信した僕は、(そろそろだ)という頃を見計らって、バッと顔を向けたのです。

目を疑いました。

すぐそばに、二つ並んで大きな冷蔵庫があったのですが、その隙間から長い髪の毛がぞろりと出てきたのです。

それは一瞬で引っ込みましたが、幽霊というにはあまりにリアルで、最初、誰かのいたずら?と思った程でした。

しかし、二つの冷蔵庫の間はほんの数センチしかないこと。裏に人間が入り込む余地など絶対にありえないことなどを考えあわせますと、それがこの世の物ではない事は明らかです。

僕は怖くなり、まな板の上を急いで片付けると、調理場を飛び出しました。

翌朝、先輩にその事を告げますと半分笑いながら言います。

「見えたん?いや~そりゃあすまん!まるで見えへん奴もおるし、わざわざ教えて怖がらせるんもどうかな~思て」

「・・・・・」

「大丈夫やて!な~んも悪させ~へんし!座敷わらし思てたらええねん」

「座敷わらしでも怖いし・・・」

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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