中編5
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俺ンちの母ちゃん 黒

母ちゃんの体験談です。俺はまだ赤ん坊だったので、全く記憶はないのですが…。

それは俺が生まれて数ヶ月の頃の話―

 父ちゃんに転勤命令が出た。場所は県外、引越しを伴う転勤だった。

母『季節外れの辞令じゃけど、どうしたん?』

父『ああ、同期の□□が具合悪うなってしもうて…。まあ、ピンチヒッターってとこかね。』

母『ほうね…。んで、いつから赴任なん?』

父『2週間後。』

母『2週間後?うわ、そりゃ大ゴトじゃ!』

父『〇〇(俺)もおって、大変じゃ思うけど、よろしく頼むわ。』

―そして2週間後、慌ただしく荷造りをして、転勤先の某県某市へ―

 父ちゃんと母ちゃんと俺の三人は父ちゃんの車で某市に向かっていた。

出発した時は快晴だった天気は崩れ始め、某市に入る頃には凄まじい雷雨となってしまった。

母『凄い雷雨じゃね。…何か凄過ぎん?』

父『西に向かって移動しおるんじゃけ、急に天気が変わったように感じるだけよね。』

 車の屋根に打ち付ける雨音を聞きながら俺の寝顔を見ていた母ちゃんは漠然とした不安を感じていた。

―新しい住まいは前任の□□さんが退出した場所だった。鉄筋コンクリート4階建ての1階、築35年は越えているだろうと思われる物件だったが、畳は新調され、壁も白いペンキで綺麗に塗り直されていた。

照明も大き過ぎる程の物が取りつけられていた。2週間という短期間に前任の□□さんの生活の跡はすっかり一新され、大家さんの心遣いに父ちゃんも母ちゃんも感謝した。が――

 母ちゃんは奇妙な感覚を覚えた。それは空き部屋が多かったことと間取りによるものかもしれなかった… 玄関、風呂場、トイレ―何でも二つある…線対象の1DK二戸が壁をぶち抜く形で一戸となっているのだ。

ぶち抜いた壁には扉ついている…母ちゃんはその不自然な扉が気になった。そして臭い…かすかにナニかの臭いがする。今まで感じたことのない臭いだ。

母『ねぇナニか臭わん?』

父『クンクン…別に。何も。』

―荷物が到着した。――。

―翌日、母ちゃんの妹が手伝いに来た。。

母『助かるわぁ。』

叔母『ええよ。暇じゃったし。…それより…姉ちゃん、気を付けんちゃいよ。』

母『……ん?』

叔母『この家、人を拒むような感じがするけぇ…。』

母『!!』

―敷地の桜が咲き始めたころ。ソレは始まった――

 母ちゃんには、俺繋がりのママ友もでき、その親子達を招いたりして賑やかに過ごしていた。

 ある日…いつもどおり友達を招き、その後片付けをしていた母ちゃんは違和感を感じた。あの扉―

 母ちゃんの視野の隅であの扉が動いている。

 母ちゃんは速攻俺を背負い雑貨屋へ出かけ、ドアストッパーを買い、取りつけた。扉が動くのは風や立て付け等の物質的な現象ということとしたかったのだ。

しかし、その夜から音がし始めた。あの扉から―

 父ちゃんは仕事が多忙となり毎日帰宅は午前になっていた。俺を寝かしつけた後、家で起きているのは母ちゃん一人。

―ガチャガチャ…カタカタ

あの扉の方から音がする…風はない。戸締まりは万全。

 母ちゃんは思い切って扉の側に向かった――音が止む。部屋に戻ると――ガチャガチャ…カタカタと音がする―

扉の方に向うと音が止む。 母ちゃんは考えた。部屋に戻る振りをして、扉が見える位置にいたらどうなる?フェイントを掛けた…

―ガチャ…カタ…

 音がして僅かに扉が開いのだ――

 ドリフのコントのような状況だったが母ちゃんは総毛立った。そして確信した…ナニかいる!

 母ちゃんは直ぐ様盛り塩を扉の側に置いた。

 そして翌朝、昨夜扉の側に置いた盛り塩を見た母ちゃんは思わず息を飲んだ…

―盛り塩が溶けて水になっている…しかも、茶色に変色して―

 それでも母ちゃんは盛り塩を続けた。盛り塩はその度に溶けていた。

 一ヶ月ほどすると塩が溶けるまでの日数が延び、扉の音はするものの、何事も起こらなかった。少しホっとしていた所に別の問題が起きた。

―季節は梅雨―

母『…ギャーアっ!!』

実家に一泊し父ちゃんより一足早く家に入った母ちゃん、悲鳴を上げた。そして俺を抱きかかえたまま外へとびだした。

 家の中で母ちゃんと俺を迎えたのは、おびただしい数のゴキブリだった。そして母ちゃんは気付いた。引越しの日、微かに感じはあの臭いはゴキブリの臭いだったと。

 父ちゃんと母ちゃんはあらゆる方法で駆除しようとするのだが、日に20匹以上のゴキブリに頭を悩ました。観察してみると、驚いたことにゴキブリは日が沈むとサッシの結露の捌け口を通って外からゾロゾロ家の中へ入ってくることがわかった。一晩で20匹以上のゴキブリ。まるでナニかの嫌がらせのようだった。

―そして、ついにそのナニかの姿を目にすることとなる―

―季節は初冬。

さすがにゴキブリも姿を見せなくなり、平和な日が続いていた。扉の音も気にならなくなった頃―

父『来月で□□さん、退職するんと…』

母『そんなに具合悪かったん?』

父『ああ。なんか良うないらしいわ。そういえば〇〇はどんな?今日検査に行ったんじゃろ?』

母『うん…。喘息の原因はカビなんじゃと…』

 その頃俺は結構ひどい喘息で毎日吸入のため病院へ通っていた。原因はカビ…家の中のいたる所に繁殖していた。当然、母ちゃんはカビと毎日格闘しているのだが、追いつかない。

そんなある日、母ちゃんは気が付いた。カビは壁の白ペンキの下から滲み出てくることに。

恐る恐るペンキを剥がして見るとビッシリと黒カビが…。よく見ると畳の縁にも繁殖しはじめている。

母『引っ越そうや!〇〇の為にも。ここに住んでちゃいけん。』

帰宅した父ちゃんにカビの状態を見せながら母ちゃんは強く言った。

父『…これはヒデェな…』 父ちゃんはスーツを掛ける為に例の扉を開けて隣の部屋へ。母ちゃんも話の続きをしようとその後を追い隣の部屋へ―

―バタン!!―

あの扉が閉まった!

―扉の向こうから火がついたように泣き叫ぶ俺の声―

父『〇〇(俺の名前)!〇〇っ!』

母『〇〇―っ!』

扉が開かない…

父ちゃんはノブを回そうとして必死。

母『そんなんじゃダメじゃ!!』母ちゃんは父ちゃんごと扉に体当たりした。

―ベキっ!

ノブが壊れ扉が開いた。

父・母『〇〇っ!!』

 駆け付けた母ちゃんが見たモノは、薄灯りの寝室で体をヨジリなが泣き叫ぶ俺とそんな俺を掛布団ごと握ろうとする大きな黒い手!だった。

母ちゃんは掛布団ごとその手を跳ね除けて俺を抱き上げて

『〇〇に手ぇ出すな!!』と大声で叫んだ。そして、すぐ様うめき始めた。

危うく落としそうになった俺を父ちゃんに渡し、その場で激しい頭痛に身をヨジる母ちゃん。脂汗まみれになり体を震わせながら激しく嘔吐した。

 この後母ちゃんは父ちゃんが呼んだ救急車で搬送された。

病院ではクモ膜下出血の疑いで検査されたが、異常はなかった。

全てを嘔吐した後、点滴をしながら母ちゃんは翌夕まで眠り続けた。

結局、俺の喘息を理由に引越しすることとなった。

その翌年、あの建物は老朽化の為解体することになった

怖い話投稿:ホラーテラー B級グルメさん

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