中編3
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くそ真面目な幽霊

あまり怖くないんだが初めて霊を見た時のことを。

後にも先にもあれっきりなんだが、自分の周りではちょっとした騒ぎになった。

最近始めたバイト先は某映画館で、自分は映写業務を担当する部署にいる。

そこでは廊下の突き当たりにある各ブースで、ちょうど真下に広がるスクリーンへと映画を映す。

2ヶ月ほどすると1人でも難なく回せるようになって、ようやく独り立ち出来たなぁ、って頃にそれは出た。

深夜の時間帯、うちでは月1でオールナイトのイベントがある。

ちょうどその日の夜勤にシフトが被って、でも交通の便も悪い場所にあるので客入り自体はまばら。

時間にも余裕があり、他のスクリーンの担当なんかとポツポツ喋ったりしながら回していた。

そして一回目の上映が終わり、幕間の清掃に入ろうとしたら映写機の奥(10cmくらいの隙間、人間は入れる訳ない狭さ)に足首が見えた。

ギョッとして思わず後退りしたら、足首がゆっくりこちらを向くのがわかった。

緊張しつつも目が離せない。

どうやら、細さからいって女性っぽい。

その時間帯は安全面から女性はシフトに極力入れないのでスタッフも男ばっかのはず。

っていうか、上記の理由から生身の人間では有り得ない。

しばらく膠着状態が続いたが、ある瞬間フッといなくなった。

情けなくも若干ちびりそうになりながら、なんとか清掃を終えて準備を完了させ、急いでスタッフルームに戻った。

その日、それからもしばしば、そいつを見た。

だいたいは手首から上とか足首から下とか、身体の一部だけだったんだが、スクリーンを映写窓から見下ろすと客は入れ替え制なのにずっと定位置に座る影があったり、逆に誰もいないはずの場所にポツンと立っていたり。

ぶっちゃけ、パニック寸前にまで追い込まれた。

ガチで見た幽霊は、見た目普通の女の子なのに絶対的な違和感があって、「この世のものじゃないオーラ」ってコレのことだろうかなんて思ったりもした。

その後、無事に仕事を終えて入れ替わりで出勤してきたマネージャー(部署の偉い人)に全部報告。

すると、予想外っていうかむしろ想定内っていうか、なんとも気の抜けた返事が返ってきた。

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「ああ、○○さんでしょ」

マネージャーが話してくれた内容は、以下のようなものだった。

○○さんは、一年ほど前に採用されて入ってきたバイトだったらしい。

飲み込みの早い方ではなかったけど、とにかく真面目。

さぼったりしないし、研修の途中で休憩をあげても、説明した時に一生懸命メモっていたノートの見直しに時間を割いていたりして、ものすごく健気な子だったそうだ。

だからこそマネージャーは育成に力を入れて、研修も通常3ヶ月かかるところを1ヶ月強でノルマをクリアさせたり(自分も今やってるとこだけど、かなりハードな内容)週3でいいシフトを週5にしたりして、なんとかモノにしてあげたいと思ってたんだって。

でも、その矢先に○○さんは事故で亡くなってしまった。

長い付き合いじゃなかったし上司と新人の間柄だったから、親しくしてたわけじゃないけど、研修中にキツく当たったりしたこともあり、当時はそれなりにショックや後悔もあったそうな。

そして○○さんはその後、たまに映写ブースに現れるのだそうだ。

特に、新人が来ると目撃率が高まるらしい。

「彼女が死んだ時さ、夢見たんだよ。身体90度くらいに曲げてて顔は見えないんだけど、急用が出来たからバイトにいけなくなった、辞めさせてくださいって言うのね。でも俺、なんか引き止めなきゃ!って思ってさ、用事早く済ませて帰ってこい、みたいなことを言った気がする」

彼女は今も、ここで働いてるのだろうか。

マネージャーは、もしかしたら新人が入るたびに姿を表すのは、後輩の様子を見に来てるのかも知れないなー、とも言っていた。

ちなみに蛇足かも知れないが、その日の上映で自分は致命的なミスをしていた。

上映フィルムがねじれて装填されていて、本来なら絶対上映中に不具合が起きるはずの大ミスだった。

でも、何故か上映は中止にもならずクレームも来ず、何事もなかったかのように終了していた。

○○さんが現れた時にはよくある謎現象らしい。

怖い話投稿:ホラーテラー 青猫さん  

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