中編3
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さがみトンネル

小話を一つ。

僕の住む街から車で少し走ると見えてくる山には、オカルトスポットとしてそこそこ有名なトンネルがある。

開通したのは昭和の初めで、山を越えて隣町に行く人が利用していたそうだが、昭和から平成に移る頃に、別にもっと便利な道とトンネルが出来てしまったため、滅多に人が通ることも無くなった、とのこと。

旧さがみトンネル。

何でも、トンネル内で行方不明になった女の子が数ヵ月後にトンネルの出口からひょっこり出て来た、とか。トンネルに入った時は確かに夏だったのに出てきたら雪が降っていた、だの。白い服を着た女の幽霊に壁の中へと連れ込まれる、といったものもあり。眉唾な噂話には事欠かない。

大学生時代、僕は一度だけこの旧さがみトンネルを通ったことがある。

季節は夏、時刻は午後十一時ごろ。暗闇でも撮れるビデオカメラ一台と懐中電灯を持たされて、僕は一人トンネルの前に立っていた。

一緒に来た友人KとSの二人は、一足先にこのトンネルを越えた向こうで待っている。といっても、トンネル内は道が悪く車が入れないので、彼らは車で新しい道の方からぐるりと回ることになる。

そうして、ジャンケンで負けた僕一人がトンネルを通るのだ。

ビデオカメラの電源を入れる。入口の横に、トンネルの情報を掘った石碑があったのでついでに撮っておく。そうしてから、僕は唾を一つ飲み込み、懐中電灯を構えて暗闇の中に足を踏み入れた。

トンネル内はとても寒かった。ネズミ色の壁は無骨で、触るとやすりの様にざらざらとしていた。地面には剥がれた壁の欠片や、風で運ばれて来たのだろう枯れ枝などが転がっている。

トンネルは入り口から向かって右の方へと緩やかなカーブを描いていた。自分の足音と、入口から吹きこんでくる風の音が反響する。嫌なBGMだ。ライトの光は頼りなかったが、手に持ったビデオカメラの赤外線映像は見なかった。

その内、出口が見え。僕はトンネルの外に出た。

いざ歩き終えてみれば、別に大したことは無かったな、というのが感想だった。辺りには人の気配は無かった。K達が待っているはずなのだが、どうやら僕の方が先に着いてしまったらしい。

外で待つこと数分すると、迎えがやって来た。車から降りてきたKが、「何かあったか?」 と聞いて来るので、素直に、「何も無かったよ」 と答える。

それから三人で、先ほど僕がトンネル内を撮影した映像を確認した。映像は二分半ほどだったが怪しいものは何も映っておらず、僕らは随分拍子抜けして、その夜は帰路に着いたのだった。

もう数年前の話だ。

ところがつい最近のことだ。久しぶりにKと会って酒を飲んでいると、Kがあの夜肝試しで行った、『さがみトンネル』 の話をしだした。何でも、PCの整理をしていたら、あの時に撮った映像のデータを発見して、ふと懐かしく思い、見てみたのだそうだ。

「当時は気付かなかったけどよ。意外と、とんでもねえもん撮れてんのな」

「何か映ってたん?」

「いや、別に妙なもんは映ってねえよ。……お前、トンネルに入る前に、傍にあった石碑撮ってたろ?」

それでも要領を得ない顔をしていると、Kが教えてくれた。

『さがみトンネル』 の全長は625メートル。

あの石碑に小さく彫ってあったのだそうだ。そのトンネルを、僕は僅か二分足らずで歩き切った。走っていないことは、映像が証明している。

唖然とする僕を見て、Kは、うはは、と可笑しそうに笑った。

ちなみにあのトンネル。オカルトマニアの間では、『タイムトンネル』 と呼ばれているのだそうだ。

怖い話投稿:ホラーテラー なつのさん  

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なるほど〜

こんなに足が早かったら体育とかでヒーローになれるな!

625Mを歩けば大体は5分くらい掛かるわな