僕の住んでいるマンションの近所に「空」という犬がいます。
飼っているのは、一人暮らしの「高橋さん」と言うおじいさん。
僕の家にも犬がいるので、よく散歩中にお会いします。
そんな、おじいさんに一度
「空くんの名前の由来は、何ですか?」
と聞いた事があります。
すると、おじいさんは、「このこは、生まれた時から虐待されて、空を見た事が無かったんだよ。」
と答えてくれました。
その時は「そうですか」というばかりでした。
それから数ヶ月経って、空くんが亡くなったと母から聞きました。
一人暮らしの、おじいさんだから寂しいだろうな・・・なんて思っていました。
そんな時、犬の散歩中におじいさんを見かけました。
公園のベンチに座って、ずっと空を見つめていました。
「お久しぶりです」
「あぁ・・久しぶり・・・」
やはりおじいさんは、寂しそうでした。
「空くん、亡くなったんですね・・・」
「あ・・ああぁ・・・。
でも、寂しくなんかないさ・・・。私は、もうすぐ、大切な家族のところへ行く。空のところへね・・・。」
「おじいさん、何言ってるんですか」
そう言いたかった。でも言う勇気が出なかった。
それから、おじいさんを見なくなった。
気にはしていないつもりだったが、心の奥に引っ掛かるものがあった。
ふと、おじいさんの家の前を通ったとき僕は息を呑んだ。
ドアの上に掛ける、「高橋」の名札が無かった。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話