短編2
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四年前の事。

我が家から歩いて一分くらいの所に消火用の貯水池があった。

その貯水池は老朽化している上に小学生が多く通る通学路にあったので、事故防止の為に取り壊す事になった。

工事を受け持ったのは地元の建設業者で、常時五~六人の作業員が働いていた。

貯水池の横には樹齢二百年くらいの桜の樹があり、その根元を取り巻くように何が祀られているか判らない、小さな石碑が五つあった。

貯水池の周囲のコンクリートが撤去され埋め立て工事が始まると、ブルドーザーが入りにくい為か桜の樹が根元から切り倒され、石碑も撤去された。

毎年春になると満開の花を咲かせる樹だった為、何も切ってしまうことはないだろうと、その業者にかなりの反感を抱いたものだった。

…日本全国に共通している事だと思うが、各都道府県の地元紙には「お悔やみ欄」というものがあって、たいていは前日に亡くなった人の氏名と年齢、住所、葬儀の日程と葬儀場の案内が掲載されている。

人によっては、勤務先やかつて就いていた職業も書かれている。

私の住む地方の地元紙にも、当然掲載されている。

…奇妙な事に気づいたのは、工事が終わって半年ほど経った頃からだった。

二ヶ月に一度くらいの頻度で、貯水池の埋め立て工事を請け負った建設業者の社員の死亡記事が載り始めた。

ひどい時には、一ヶ月に二人亡くなった事もあった。

風の噂によると、その死に方が病死か変死かはっきりしない、かなり不可解な状態だったらしい。

結局二年半の間に十四人が亡くなり、色々な工事に精通している熟練した社員のほとんどを失ったその建設業者は倒産し、社長は多額の負債を抱えた事を苦にして、山の中で自殺した。

…三ヶ月前に地区の運動会があり、夕方から公民館で宴会が開かれた。

私は酒が嫌いなのでオレンジジュースを飲んでいたのだが、少し離れたところで瓶ビールを六本ほど飲んで、かなり酩酊している様子のおじさんが、舌回りの悪い口調で周囲の人に話しているのが聞こえた。

「…〇〇〇建設も馬鹿だよなぁ。

御神木を切り倒すだけでも充分バチが当たるのに、よりによって〇〇〇〇様(※聞き取れず)が祀られている石碑を掘り返すなんてよぉ。

…だからああなるんだよ」…と。

そのおじさんは、飼っている犬を散歩させている時によく顔を会わせる人なので、全く知らない訳ではないが、前述の「〇〇〇〇様」について、何と呼ばれているのかを聞き出す勇気はない。

…だって、その石碑があったのは我が家の目と鼻の先なのだから…。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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