中編5
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藁人形の木

とある心霊スポットに行った時の話

その場所は地元ではそこそこ知られている場所だったのだが……

俺「どんなA?」

A「いや全くなんにもないわ」

B「え~結構期待して来たのに~」

期待が外れたBは不満そうだ。この場所は所謂、ガセ心霊スポットってやつだ。

心霊スポットの中にはこういう場所が多々ある

A「馬鹿じゃのお前は。なんにもない方がええじゃろ」

B「いやまぁそうじゃけどさぁ。じゃあなんの為に来たんかって話よ」

確かにどちらの意見も一理ある。何かあっても嫌だが、何も無いのも面白くない

A「雰囲気を楽しんだって事でええんじゃない?まぁ帰ろうや」

そう言いながら車に乗り込むA。俺とBもその後に続いた

B「でさぁ。折角じゃけもう一ヵ所いかん?」

なにが「でさぁ」なのかはわからないが、ハンドルを握るBがそんなことを言い

出した

A「はぁ?俺もう眠いんじゃけど」

B「まぁまぁ。この辺の近くにさぁ『藁人形の木』ってのがあるらしいんよ。そ

こ行こうや」

俺「……なにそれ?」

B曰く、詳しくは知らないが、とりあえず木に藁人形が打ち付けてあるらしい。

恐らくBは始めから行く気だったのだろう。まだ俺とAが行くとも言っていない

のに、車は帰り道から逸れていた

『藁人形の木』まではガセ心霊スポットから車で10分ほどだった。確かに近い

B「はい到着~」

上機嫌なBと、眠気で不機嫌なA。俺はと言うと、少しだけ藁人形に興味があっ

実際に藁人形なんてそうそう見る機会はない

だが、どうやら残念な結果に終わりそうだった

俺達は周りの木を一本一本懐中電灯で照らしていくが、藁人形はどこにも無い

B「あれ~おっかしいなぁ。場所間違えたか?」

A「はいはい。つかどうせガセじゃったんだって。もう帰ろうや」

B「いやちょい待って!もうちょいだけ!」

俺「B、もう……」

諦めようや。そう言おうとした時だった

コーン……コーン……コーン……

何かを打ち付けるような音が辺りにこだました

俺とAは互いに顔を見合わせる

B「ちょ、なんこれなんこれ!?」

小声ながらも、興奮気味にはしゃぎ出すB

AはそんなBに近寄ると、両手でBの頭を押さえつけ、早口で捲し立てた

A「黙って聞け。こんな時間にこんなとこで啄木鳥なんかおらんよな。ええか?

とりあえず上を見るな。見るなよ絶対。頭を上げるな!下向いとけ」

Aと俺は気付いていた。音は俺達の頭上から聞こえている

コーン……コーン……コーン……

鳴り響く音。なぜか俺にはその音が次第に心地よくなってきていた

A「おいM!大丈夫か!?」

Aの声が聞こえる。あぁ分かってる。上は見ちゃいけない。でも見たい。頭がク

ラクラして来た。見てみようかな?ちょっとだけなら大丈夫かな?いや大丈夫だ

ろ……

カンカンカンカンカン!

俺が上を見上げようとした次の瞬間、突然別の金属音が鳴り響いた

俺は思わずそちらを振り向く。少し離れた所に人影が見えた

「おい!慌てんでもええけぇ歩いてこっちこい!上だけは見るなよ!」

人影はこちらに大声でそう言うと、また何かを打ち鳴らし始めた

A「いくど!」

そう叫んだAは早歩きで音の鳴る方へ。俺とBも慌てて後を追いかけた

「よっしゃ!しっかり後をついてけぇよ」

50mほど歩いただろうか。明かりが消えていたので気付かなかったが、そこに

は一軒の民家があった

「ここまで来りゃあもう見えんわ。しかしこの馬鹿共は何をしょうるんかのぉ」

突然の辛辣な言葉ではあるが、俺達は返す言葉もない

男性の名前はYさん。年は40代後半ぐらいだろうか

Y「あの音聞いたんはいつぶりじゃろうか。まだあそこの事知っとるもんがおっ

たんじゃな。まぁちぃとゆっくりしていけ」

Yさんは俺達を家に上げると、話を聞かせてくれた

随分昔の話。その時代にはまだ正式な丑の刻参りが残っていた

ある時、この場所で二人の死体が見つかった。その死体はどちらも丑の刻参りの

正装をした姿だった

さらに奥にはもう一人の死体。同じく丑の刻参りの正装姿

真実はわからないが、推論としてはこうだ

本気で丑の刻参りをしようとした三人が幸か不幸かここでかち合ってしまった

丑の刻参りの時間は必ず被ってしまう。この辺りで行うには場所もここしかない

そうだ

さらに丑の刻参りは他人に見られてはいけない。その事から三人はそこで殺し合

いを始めたが、結局は三人全員が息絶えることとなった

そして、その日から丑の刻に人が近付くと、木に釘を打ち付ける音が鳴り響くよ

うになったそうだ

B「ってことは、その三人の幽霊が今でも丑の刻参りをしょうるってことっすか

?」

Y「知らん。さっきも目をつむっとったし、わしゃ見たことなぁんじゃけ。見と

ったら今頃生きちゃあおらん」

A「やっぱりそうなんですか。俺もなんか絶対見ちゃいけんって気になったんで

すよ」

B「てかてか、マジで丑の刻参りで人を殺せるんスか?」

Y「殺せる。わしゃやったことないけぇ確かじゃないがの」

B「マジすか!?かなりヤバイじゃないっスか!」

Bのテンションが若干ウザい

Y「心配せんでも今はほんまのやり方ゆうんは残っちゃおらんわ」

俺「ほんまのやり方ですか?」

Y「今残っとるのは手順が全く足りとらんけぇの……そろそろええじゃろ。ほれ

、帰れるど」

半ば強引に話を打ち切るYさん。俺達もそれ以上のことは聞かなかった

Y「あぁ最後にな、ここであったことやわしが話したことを誰かに話すんはええ

。どうせ誰も信じやせんじゃろうけどな」

そこまでは笑いながら話していたYさんの顔付きが真剣になる

Y「じゃけどこの場所は誰にも言うな。理由はわかるな?」

俺達は無言で頷いた

帰り道、先ほど音がした場所に差し掛かった時、ふとAが上を見上げた

懐中電灯に照らされた一本の木。その木の高さ5mほどの位置に藁人形が3つ打

ち付けてある

俺達は足早にその場を後にした……

現在に至るまで、俺はあの場所の位置を誰かに話したことは、勿論一度もない

怖い話投稿:ホラーテラー Mさん  

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