中編7
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名も無き唄

俺は幼い頃から幽霊が見える。

見たいんじゃない、見えてしまう。

そのせいか驚きは全く無く、もう慣れっこだ。

突然だが、皆さんには夢はあるだろうか。

まぁ夢なんて大袈裟だが目標や、やりたい事でもなんでもいい。

夢を持つ人達は、一生懸命それに向かって努力をし続けている。

もし、夢半ばで終わってしまっても、その努力や経験はこれから先、生きてく上で決して無駄にはならないだろう。

あの時がむしゃらに頑張った、という証や誇りは永遠に残る。

だが、それは生きていくという過程の話だ。

もしあなたが夢の途中で死んでしまったら‥

あなたは悔いを遺して死に切れるだろうか。

また、あなたは自分の夢や目標の意味の先を考え事はあるだろうか。

これはそんなお話。

俺は、その日珍しく遠方の方まで出て、友達と飲みに行った。

まぁ遠方と言っても、俺の地元の駅から7駅くらいの所だが。

しかし、極度のめんどくさがりの俺はいつも地元でしか遊ばないし、普段バイクばかりで電車に滅多に乗らないので、俺にとっては結構な遠出だった。

その友達というのは、一流のカメラマンを目指し、I県から上京してきた昔ながらの悪友だ。

実は俺はちょっと前までI県におり、家庭の事情でこっちへ引っ越してきている。

そいつとは、当時ずっとつるんでいた間柄だった。

今、そいつはプロカメラマンの下で師事しており、久しぶりに空き時間ができたので飲もう、という事になったのだ。

早速、俺達は乾杯した。

友「いやぁ久しぶりじゃんねー。5年以上ぶりか?」

俺「そうだなー。最近調子どうなの?」

友「どうもこうもないよ。こっちに来てもう6年くらいか。全然芽が出ないっつーか。才能ないのかね」

俺「そんな事ねーだろ。」

友「カメラマンは普通、芽が出て一端の仕事でメシ食える様になるまで10年くらいって言われてるけどな」

俺「そういうスパンで言うならまだ6年目じゃんよ」

友「でもなぁ‥今すげぇしんどくてさ。カメラだけじゃ食えないから、バイトと掛け持ちしてるけど‥そろそろここらが潮時っていうか、限界かなって考えてんだよね」

俺「いやお前そんな事言うなよ。俺らの歳で一つの事そんなに長く続けられんのすげぇって。もったいないじゃん。俺はカメラとかよくわかんねーけど、お前の撮る写真好きだぞ」

友「そういや、あん時もお前が俺にそう言って後押ししてくれたんだよな。でもちょっと疲れちゃったんだよ俺。もう見切りつけて実家帰ろうかと思う」

俺「お前‥後悔しないのかよ?」

友「親がうるさくて。実家の酒屋継げってさ。まぁ今までさんざん好き勝手やってきたしな。」

俺「そっか」

友「一人でいる時、たまに物凄い不安感に襲われるんだ。本当に俺の夢は叶うのかって。今のままでいいのかって。自分なんか消えて無くなりたいって思うんだ」

友人は愛用の一眼レフをいじりながら、ため息混じりにそう言った。

特にやりたい事もなく、プラプラしながらフリーターやってる俺からしたら、夢を追ってる人間は尊敬に値するが、やはり相応のリスクや悩みが伴うものなのだろう。

帰り道、そんな事を考えながらひとり、歩いていた。

コンビニでビールを買い、駅の側の公園のベンチに腰を下ろした。

目の前の池は、月明かりと街灯が反射している。

すると、どこからともなく池の前に若い男が現れた。

‥20代くらいだろうか。

池の周りを行ったり来たりしている。

俺は直感的に、「生きている人間ではない」と思った。

その証拠に尋常じゃない鳥肌と、右こめかみに鋭い頭痛が走る。

俺「なんだよこんな時に‥」

めんどくさい事に巻き込まれまいと、ベンチから立とうとした時、奴と目が合ってしまった。

するとそいつはいつの間にか俺の隣に移動し、俺をじっと虚ろな目で見つめていた。

男「アンタ‥もしかして俺の事がわかるのか?」

俺「ちょっとわりぃ。今酔ってるからさ、勘弁してくんねーかな」

男「見えるのかっ?すごい、こんな事初めてだ!」

俺「‥ってかいつも思うんだけどさ、アンタら死人が、生きてる人間に普通のノリで口きくなよ。これじゃ全然死人に口なしじゃねぇじゃん」

男「ずっと誰かと話したかった‥。7年間ずっと一人だったから」

彼は7年前、この公園の側の道路でトラックに轢かれて死んだという。

もともと、ミュージシャンを目指して、地方から上京してきたらしい。

俺「実際売れてたの?なんつーか‥あの‥メジャーデビュー的な」

男「まさか。毎週日曜に路上ライブやって、誰か立ち止まるか止まらないかくらいの実力だよ。あと小さなライブハウスをたまに流す程度で」

俺「じゃあやっぱこの世に7年間いるって事は、ミュージシャンとして成功しなかったからっていう未練で?」

男「‥まぁそんな所かな。俺の存在というか、俺が精一杯生きた音楽っていう証みたいなモノを遺したかったんだ。でも俺が死んだ所で、誰も気づきはしないよ。それが苦しいんだ。」

俺「気の毒だとは思うけど、今更そんな事グチグチ言ったってしょうがねぇだろ。別に家族とか友達はアンタの事忘れないだろうし、そんな事にこだわって数年もこの世に留まってるなんてどうかしてるぞ」

男「そんな事ってなんだよ!ミュージシャンとしてじゃなきゃ意味がないんだ!じゃなきゃ俺の努力が無駄になる‥アンタには夢とかないのか?」

俺「ないね。そんなにアツくなれるもんがないっていうか。だからアンタはすげぇと思う。その気持ち悪いくらいの執念。なんで音楽やろうと思ったの?」

男「子供の頃、イジメを受けてすごい落ち込んだ時があったんだ。もう生きるのも嫌になった時に、路上ライブやってる人の歌を聞いて救われたんだよ。希望が湧いたっていうか、勇気を貰ったんだ」

俺「へえー。その人は有名になったのかね?」

男「いや、しばらくして見なくなっちゃったけどね。でも、あの人の唄を俺はずっと忘れられないよ」

俺「そっか。じゃあまぁ、とりあえず俺帰るわ。遅いし。あ、名前聞いていい?」

男「ケンタロウだよ。ケンタロウ」

俺「一応覚えとくわ」

男「‥また来てくれよな」

俺「待ってどうすんだよ。今度来た時は成仏しとけよ。アンタ死んでんだからな」

しばらくして、俺は免許更新をした帰り道、駅を降りると、女の子がギターを弾きながら唄っていた。

別に上手でもないが、何か惹きつけられる唄だった。

聴いてるのは俺一人だけだったが、俺はついつい、立ち止まってその姿を最後までぼんやり眺めていた。

唄い終えたその子はペットボトルの水を飲みながら話しかけてきた。

女「最後まで聴いて下さってありがとうございます!この間からこの場所でやり始めたんですけど、なかなか難しくて‥でも最後まで立ち止まって聴いてくれた人、お兄さんが初めてです」

俺「いや聴いてたってか‥うん‥まぁ知り合いにミュージシャン目指してた奴がいてさ。何となく聴いてたみたいな。

つか何でこんな所で唄うの?恥ずかしくないの?いや、変な意味じゃなくて」

女「実は私が中学生の時、毎週日曜になるとこの場所で唄ってた人がいたんです。よくわかんない唄だったんですけど、私、すごい励まされて。嫌な事があっても、その人の唄で全部忘れられたんです。今はもうその人見ないんですけどね。

だからって訳じゃないんですけど、私はここで唄ってるんです」

俺「‥その人の名前って‥わかる?」

女「ケンタロウさんっていう人です。当時貰ったCD、まだ大切にしてますよ。もしかしてお兄さん、ケンタロウさんのお知り合いの方ですか?」

俺「あぁ‥まぁちょっと喋ったくらいだけど」

女「えー本当ですか!?今ケンタロウさん、どこで何されてるんですか?」

俺「んー。まぁ近いようで遠いような所にいるけど、まだ唄ってるよ」

しばらくして、夜中に何度か、俺は例の公園に訪れた。

だが奴は現れなかった。

多分、あの子の唄を聴いたんだと思う。

そして気づいたのだろう。

ケンタロウは、精一杯生きた音楽という大それた証を遺したかった訳じゃない。

ただ、唄で見知らぬ誰かを励まして、勇気づけたかったのだと。

その証明が欲しかったんだ。

ケンタロウが名も知らぬ誰かの唄から希望や力を貰い、そして、同じ様にあの女の子がケンタロウという名も無きミュージシャンから、たくさんのモノを貰ったという奇跡。

これで十分なんだと思う。

目に見えない繋がりを、ケンタロウは最期の最期に確かなモノにしたのだろう。

夜風と共に、どこからか唄が聴こえた様な気がした。

―後日談だが、実は、カメラマン見習いの友人が共同で小さな個展を開く事になった。

友人の作品はその中のほんの一部でしか展覧されていないが、友人にとって大きな一歩だろう。

その喜びを電話で意気揚々と語っていた。

俺「良かったな。だんだんいい風に流れてんじゃん」

友「ああ。多くの人に認めて貰うことよりも、たった一人でもいいから誰かを感動させたいって思ってさ。やっと自分の夢の意味が見えてきたよ」

色んな奴らに刺激され、かくいう俺にも、内緒だが目標ができた。

何からすればわからないが、とにかく今は命に感謝し、自分のやるべき事をひとつひとつ、丁寧にやっていこうと思う。

怖い話投稿:ホラーテラー 京太郎さん  

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