『猫は夜中に空き地で集会をしていて、ネコジャという踊りを踊る』
という話を聞いた事はないでしょうか。
私は、よくある和み系の昔話のようなものだと思っていました。ところがどうも、ネコジャはあるようです………。
私の実家は中古の家を買ったものです。
放蕩息子が趣味の商売をする為に建てた、広さの割に部屋数も無く押し入れのような収納も無いという、生活するには不便な家。でもその不便さに気付かないほど、適当で気ままな生活をしていたその人は、猫を飼っていました。名前は「ねこ」。
正確には名前を付けずに猫、猫と呼んでいたらそのまま「ねこ」になったという感じです。
でも気ままな生活は猫にとっても気楽だったのでしょう。寝床と食事はあるけど干渉はしてこないのですから。
さて、その猫ですが、飼われているというか住み着いているというか、そういう状態だったので、その人が引っ越す時に、うちに置いて行かれました。
飼っているというよりは寝床と餌提供者なだけの前の飼い主の扱いに慣れ親しんだねこは、半野良というやつで、トイレや縄張りパトロールの為に一日に何度か玄関前でニャーニャー鳴いて外に出て、またニャーニャー鳴いて中に入る…という毎日を過ごしていました。
外を出歩くと病気をもらってきたり喧嘩をしたり、どこかで怪我をするかもしれません。
今まで好き勝手にしていた猫が怪我をして帰って来た時、もう外に出さないようにしようとしたこともありましたが、ねこはトイレがあっても使わず、膀胱炎になってでも外でしかおしっこをしようとはしませんでした。それで、長年そう過ごしてきたのだから仕方がない、と家猫にするのは諦めたのでした。
ところが、やはりそうして外を出歩くうちに病気をもらってきたらしく、ねこは猫エイズと白血病になりました。日に日に弱っていくねこ、そしてかさむ病院代。病院にも一日おきに行かねばならなくなりましたし、どうみても先はあまり長くありません。
それで、前の飼い主に連絡をとったのです。
するとその人は、ねこは俺がずっと飼っていたからと、一度は置いて行ったくせに、連れて行ってしまったのです。
数日後、良い医者にかかったのか、ねこが元気になってきたと連絡があり、寂しいけど元気になったのならよかったと安心しました。
ところで。
半野良の寿命は5年程度といわれています。ねこのように病気になったり、環境的にも長生きできないのでしょう。
重い病気は小康状態まで回復出来たねこですが、その時既に7歳。別れは突然やってきました。
夜中、夢なのか現実なのか、真っ暗な中ニャーンニャーンとねこの声がしました。玄関を開けてほしい時に鳴いていた、あの声です。
あ、ねこが鳴いてる。起きて戸を開けてやらなきゃ……と思った私の前に、後ろ足だけで立ったねこが現れました。
そしてヨタヨタと私のベッドの周りを2足のまま歩くのです。前足と尻尾でバランスを取りながらヒョコヒョコ歩く姿は、踊っているようにも見えました。
これが話に聞くネコジャってやつかぁ~と思っていると、猫はニャーンニャーンと鳴きながらヒョコヒョコと去っていきました。
翌朝私は、母に昨晩のことを話しました。
久し振りにねこの夢を見た、ネコジャ踊りながら去って行った、と。母も笑いながら聞いていました。元気になったって言ってたから、踊ってみせたのかもね~とか言いながら。
ところがその日、私が学校から帰ってくると、母が言いました。
「ねこ……死んじゃったんだって」
元気になったといっても、白血病とエイズ。完治という事はありません。
でもねこの場合は半野良だったので寿命じゃないともいいきれません。
死因はわかりませんが、夜中でも鳴いたら目を覚まして玄関を開け閉めしてあげていた私に、お別れをしに来たんだろう、と母は言いました。
私も、そうだったらいいなと思います。
ネコジャがどういう意味の踊りなのかは知りませんが、暢気に踊りながら去って行ったんだから、きっと苦しまずに逝ったんだろうと思います。
あれから15年。我が家には3匹の猫がいて、うち2匹はもう11歳。
まだまだ、ネコジャを踊る姿は見たくないです。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話