ー相変わらずのコマ切れの文の上、今回は少し長い話になりますが、読んで頂ければ嬉しいですm(__)m
今回は母ちゃんと友達の話です。
友達の名前はΥさん。
転勤族の方で4年ほど、ご近所に住んでいた。Υさんと母ちゃんは愛称で呼び合うほどの間柄で、母ちゃんはΥさんをとても信頼していた。
キッカのおばちゃんが母ちゃんの最大の理解者なら、Υさんは一緒に歩く仲間というところだろうか。
Υさんも《見える・分かる》人で、母ちゃんいわくその能力はかなりのモノらしい。
Υさんの引越しから1週間ほどたったある日、電話があった。
俺が電話をとったのだが、Υさんの声に元気はなく、すぐ母ちゃんに代わってほしいとのことだった―
母『Υちゃん、どんな?落ち着いた?』
Υ『うん…荷物はだいたい片付いたんだけど…』
母『どうしたん?』
Υ『Μちゃん(母ちゃんの愛称)は何か感じない?』
母『?わからん…ウチはΥちゃんみたいにスキャンはできんよ(笑)どうしたん?ナニか来とるん?』
Υ『…来てるというか…濃くなってるって感じかな…』
母『そうなん…ウチは感じんけど、話してみて…』
―Υさんの話…
Υさんの違和感は荷物の整理が粗方済んだ頃からあった。
もちろん《見える》人達の多くがそうであるように、Υさんとしてのソレに対する対処法も心得ていた。
ソレは初め家の中にボンヤリと漂っていた。善意も悪意も感じられない。ただ漂っているだけの“気配”に過ぎなった。この時点ではΥさんは無視することにしていた。そのうちいなくなるだろうと思っていたのだ。
ところがある日を境にその気配が濃くなってきた。キッカケは知らずに通りかかった踏切だった。
人身事故があったことを知らずにご主人の車で通りかかった踏切で男性の姿を見た。
男性は左半分が潰れた自分の頭を右手で抱え、血まみれの姿で立っていた。
Υさんはひどく吐いた。
その男性の恨みツラミの気持ちが流れこんできたからだ。おそらく、自死された方のだろうと…
母『…そうなんじゃ…Υちゃん、気持ちをしっかり持たんといけんよ。大丈夫じゃけ。ソレに気持ちを合わせちゃいけん。何かあったらすぐゆうてね。まずは体!疲れをとってね。』
Υ『うん…。そうするね。ありがとう。』
―母ちゃんはしばらく考えこんでいた…
そのΥさんの回りに不思議な現象が起こり始めた。
その日Υさんは子供とご主人を送り出し、家事を一通り終えた後うたた寝をしていた。リビングは陽当たりもよく気持ち良かった。
その足音は玄関からやってきたー
…タッタタッタタッタタッタ…
(!!…マズイ…)と思った瞬間、金縛り…Υさんはきつく目を閉じた。
(…見ない、見ない…)
…タッタタッタタッタタッタ…足音は子供のようだ。
Υさんの周りを回っている。
…タッタタッタ―足音が止まったちょうど頭の上で…
―気配が近づいている…
…見られている!…
目を開ければ恐らくソレは鼻先まで来ているだろう…
…タッタタッタタッタタッタ…
足音が離れていった。
―シャーッ、シャーッ
リビングのカーテンを動かしている。
―シャーッ、シャーッ
まるでそれは“存在に気が付いてほしい”と言っているようだった。
Υさんは薄く目を開けた。
カーテンを動かしているのは防空頭巾を被り、煤で汚れた服をきた少女だった。(…目が合ってしまう!)
―ガチャガチャ…
その時、玄関の鍵が開いた。
『いや〜、参った…会議の資料忘れたよ。』
入って来たのはYさんのご主人だった。
Y『…はぁ…よかった』
『ん?どうした?』
Υさんはカーテンを指差した。
カーテンはさっきの余韻で揺れていた。
―不思議な現象は続いた。
翌日、和室に掃除機をかけていたΥさんはナニかが家の中を移動している気配に気づいていた。
ナニか複数のモノが玄関から廊下、リビング、そしてキッチンへ…引きずるような音とともに移動している。ソレはΥさんに近づくわけでもなく金縛りにもならなかったので、気づかぬふりをしていた。
和室の掃除が終わり、洗濯物を取りにいこうとしてΥさんは唖然とした。
ソレが通ったと思われる場所に置いてある電化製品のデジタルタイマーがすべて《00:00》 で点滅している。きちんと時間を合わせていたのにリセットされていたのだ。
掃除機をかけていたのだから停電ではない。その証拠に和室、寝室などの物はリアルタイムのまま…
そして家の中のあの気配は更に濃くなったように感じた。
―そんな状況のΥさんから母ちゃんに電話が来たのは、前の電話から4日後―
その日は土曜日で、父ちゃんと妹は出掛けていた。俺の部屋のエアコン工事があり、俺と母ちゃん、二人が家にいた。
―電話が鳴った…
母『はい、…そうですけど。…えっ!!わかりました!代わってください。』
―Υさんのご主人からだった。
具合い悪くなったΥさんから、母ちゃんに電話してくれと言われたらしい…
母『Υちゃん!どうしたん?!』
Υ『…苦しい……。入られた…。Μちゃん、助けて。この人、全身焼けタダレてる…焼身自殺したみたい…苦しい…。…ああ…死ぬ瞬間を見せる気だわ…』
母『分かった!どうやったら力になれるんかゆうて!』
Υさんから指示があったらしく、母ちゃんは塩と日本酒を持って慌ただしく洗面所に行った。
―ジャブジャブ…
―ガラガラガラ…
母『Υちゃん?…準備は出来たよ!』
Υ『Μちゃん…リアルに私の姿を思い浮かべて、私の背中…叩いて……Μちゃん…早く…(泣)』
母『わかった!………』
母ちゃんは目を瞑り集中した。
母ちゃんは深く呼吸をした―
母『今、私はΥちゃんの後ろにいるよ。ここ…堅甲骨の間、叩くけん!…エイッ!』
母ちゃんは電話を左手に持ちながら、右手で叩く動作をした。
母『…Υちゃん?どんな?もっとする?』
Υ『…もうちょっとみたい。Μちゃん、お願い。』
―ピンポーン
電気屋さんが来た…
母『〇〇(俺)、母ちゃん出れんけぇ、頼むわ!』
俺『わかった。』
俺は電話が気になりつつ電気屋さんと二階の自分の部屋に行った―
―下から所々母ちゃんの声が聞こえてくる。―
母『リン○×#*※□☆…エェイ!!』
壁が震えた。
―電気屋さんがビックリして俺を見た…
しばらくすると取り付け工事の音にも負けない母ちゃんの歌声が聞こえてきた。
(母)♪嬉しいこぉともあるだろサ、悲しいこぉともあるだろサ、だけど僕らはくじけない〜!泣くのは嫌だ笑っちゃおっ!進めェー…♪
―熱唱だった……
―電気屋さんが肩を震わせて笑うのを堪えていた…
工事が終わり一階に降りると母ちゃんが笑顔で立っていた。
電気屋さんが帰った後、俺は母ちゃんに聞いてみた。
俺『Υさん、どうなったん?』
母『大丈夫よ。Υちゃん、強い人じゃけん。』
俺『強い人なのに、何でそうなったん?』
母『強い人じゃけぇ、ああなったんよ。』
俺『…よう分からん…?』
母『力が強いほど、よく視えるし、分かる。分かる人には分かってほしいとおもうモノが来るんよ。』
俺『それって大変なんじゃないん?』
母『ほうよ。じゃけΥちゃんもちゃんといつもは防御しとるんよ。』
俺『防御って?』
母『ほうじゃね…スイッチオフにするって感じかね?』
俺『ほいじゃ、今回はオフになってなかったん?』
母『オフにするにも意識の力がいるんよ。今回は引越し疲れがあったところにフイに視てしもうたモノ(踏切の男性)があったけ、うまくオフになったとらんかったんじゃろ。』
母『…Υちゃんね、…媒体にもなるんよ…。意識して入らせんようにしとるんじゃけどね。今回は一辺にようけ来とったけ、隙をつかれたってゆうとったわ。』
俺『ナニが入ったん?』
母『焼身自殺した女の人じゃと。…恨みの思いが流れ込むのも辛かったろうが、焼身する時の感覚をフラッシュバックで追体験させられたらしいけぇ…Υちゃん相当キツかったぁ思うわ…』
俺『…んで、母ちゃんに助けを?』
母『助け?そんな力、母ちゃんにあるわけないじゃろ。ただ、アシストはムリでもサポーターにはなれると思ったんよ。元々Υちゃんの力があるけぇ、ソレに入られてもΥちゃんの意識があったんよ。後はΥちゃんがソレを追い出しやすくすれば…じゃろ?』
俺『追い出しやすくするって、どうやって?』
母『アウェイの雰囲気をホームの雰囲気に変えるんよ。アウェイでも実力発揮できるんがプロかもしれんけど、Υちゃんはプロじゃないけんホームにしたほうが実力を発揮できるんよ。』
俺『どうやってサポートするん?』
母『母ちゃんが傍にいて応援してることをΥちゃんに意識してもらうんよ。一人じゃない!って思おてもらうんよ。スキャンできるΥちゃんなら母ちゃんの想いをキャッチできるけん。』
俺『スキャンって?』
母『なんてゆうたらええんかいねぇ…?まぁ、エネルギーか思念の読み取りかいね?Υちゃんの場合は。ほれ、〇〇が盲腸の時、母ちゃん酷く痛くなる前に病院に連れていったじゃろ?あれはΥちゃんに《〇〇君の右の下腹部にモヤモヤしたモノを感じる》って言われたけぇよ。じゃけ〇〇が《なんか変じゃ》ゆうた時すぐ大きい病院連れてったんよ。』
俺『…それって、超能力?』
母『そうかもしれん。じゃが、Υちゃんは特別だとか思おとらん。じゃけぇ、母ちゃん好きなんよ。』
俺『じゃ、あの歌は…』
母『ああ…ひょっこりひょうたん島?もちろん、応援歌よね(笑)…元気出るじゃろ?(笑)』
俺『母ちゃん…』
―母ちゃんはΥさんと今でも仲良くしていただいている。
ちょくちょく電話もかかって来ているが、会話の途中で母ちゃんの笑い声がするからΥさんはその後何事もなく過ごしているのだろう。
―最後までお付き合いいただき、ありがとうございましたm(__)m―
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