今から10年以上前、まだ俺が大学生だったころの話。
大学で学んだことなんてほとんど忘れてしまったけど、ひとつだけ、どうしても忘れられない講義がある。もしも今、同じような講義がされたら大問題になるのだろう。
俺が通っていた大学は、必須単位として一般教養科目がいくつか用意されていた。みんな「パンキョー」とか略していたっけ。
俺は理学部だったけど、そのパンキョーの中から心理学を選んだ。テストも無しに、出席だけでラクに単位が取れると評判の講義だったからな。
その第一回目の講義。題目は「サブリミナル効果」だった。
みんなも大まかには知ってると思うけど、映画の最中にコーラの映像をはさんだら、観てた客がコーラ飲みたくなりましたってヤツ。潜在意識に働きかける心理効果みたいなものだよね。
結構おもしろい講義だったよ。実は効果がはっきりとは判明してないとか、世界的に禁止されたとか、他にも教授自身が行った実験結果とか見せてもらった。
で、講義の最後の総括。教授がこんなことを言ったんだ(ずいぶん前のことだから、語り口とかは再現できてないけど)。
「サブリミナルメッセージが効果を表わす場合、必ず共通することがある。
当然のことだが、被験者がコーラという飲み物を知らなければ、どんなにコーラの映像を見せたところで「コーラが飲みたい」とは思わない。
これと同じく、英語しか知らないアメリカ人に対して日本語を用いたサブリミナルメッセージも絶対に効果を示さない。
潜在意識に働きかけるには、単純で短く、日常的な言葉でなければならない。
実は今回の講義を通して、生徒であるあなた方にサブリミナルメッセージを送った。
だが、絶対に効果は表れないだろう。
送ったメッセージは単純で短いものだが、日常的ではないからだ。
しかし私の送ったメッセージがわかった時、別の効果が表れるように仕掛けを施している。毎年行っているが、このメッセージの効果は抜群だ。」
と、こんな内容だった。
そして教授はテープレコーダーを取り出し、そのテープを再生した。
テープからは、黒板に板書するときに出るチョーク独特の乾いた音。
「このテープには今回の講義を録音してある。
チョークの音をよく聴いて欲しい。この講義中、断続的にだが『ツー・ツー・ト・ツー・ト、ツー・ツー・ト・ツー』と、音が出るように気をつけて板書していた。
これが何を意味するのかは自分で調べること。
そしてこのメッセージの効果は…」
もう、おわかりだろうか。
『ツー・ツー・ト・ツー・ト、ツー・ツー・ト・ツー』
は、モールス信号で
『シネ』
そして教授が最後に言った
「このメッセージの効果は」
「この講義をずっと憶えていること」
心理学の教授が送ったサブリミナルメッセージは、確かに10年以上経つ今でも、その効果が続いている。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話