長編7
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テレビ局の倉庫

M県にあるNテレビの倉庫には、いわくつきのフィルムだけを置いておくための金庫があるらしい。

相当危険なフィルムであるため、しっかりと鍵をかけて保存してあるのだそうだ。

上司との酒の席でその話を聞いた新入社員のAは、その金庫のことが気になって仕方がなくなってしまった。

大した大学も出ていない自分が採用されたのは「好奇心旺盛な性格」を最大限にアピールしたためだとAは信じていた。

「世の中、適当にやる気を出してりゃどうにかなるんだよな」

半年前、内定通知書を見ながらAはそう呟いていた。

幼いころから施設で育ってきた彼の処世術は、目上の者に取り入ることだった。

いかにして自分を良く見せるかという術をよく心得ていた。

ただ仕事ができて熱いだけの人間よりも、好奇心旺盛で無鉄砲な面を見せた方が

上の人間は「まだまだ若いな」と思って油断するのである。

ある日、Aは広い倉庫の中で、ついにその金庫を発見した。

「まさかこんな所にあるとはな…」

こんな所とは、倉庫の一番奥にある棚の裏側に設けられた地下室の中だった。

おそらく隠し扉のようなものがあるだろうとは踏んでいたが、まさか地下に繋がる扉があるとはAも予測しておらず

彼の気持ちは高ぶっていた。

「それにしても妙な部屋だな…。なんだよこれは…」

地下への階段を下りて来たAの目にまず飛び込んできたものは、

大きな赤い鳥居だった。赤いとは言えかなり古びているため、所々中身の木が剥き出しになっている。

その鳥居をくぐると、まるで自分の行く手を阻むかのように黒い台のようなものが置かれていた。

「なんだこれ…?」

ちょうど膝の上辺りまでの高さのそれは、

映像を見るためにと持ってきた機材を置くのにちょうど良かったので

Aはそこにパソコンやレコーダー等を置いた。

足下にはなぜか灰のようなものが散らばっていて、誰かが煙草でも吸ったのだろうかと思いつつ

Aは早速、例のテープを探し始めた。

部屋の隅に置かれた無数の段ボール箱を全て開けると、一番下の箱の中に白い金庫が入っていた。

(お、この金庫だな…)

あまりにスムーズな展開に、Aは内心ほくそ笑んだ。

努力せずに大きな利益を得ることが彼の信条である。

部長のデスクから金庫の鍵を見つけるのは容易かった。

普段使っている資料室や倉庫の鍵の束とは別に、わざわざ小さな巾着の中に入れてあったのだ。

(つくづく分かり易い…単純な男だ…。今にその座を奪ってやるよ…)

そんなことを考えつつ金庫を開けると、中には一本のビデオテープが置かれていた。

「あれ…。これだけか?」

いわくつきのテープが大量に保存されているものと思っていたAは拍子抜けしたような気になり、

幾分か低下した心持ちでそのテープを手に取った。

先ほどの台の上で再生してみると、大分古いテープらしく

レコーダーの中でガタガタ呻っている。

「なんだこれ…」

しばらくして画面に映し出されたのは、どこかの農村の、祭りの風景だった。

かなり古い映像らしい。

大きな炎を、巫女らしき少女たちが囲んで踊っている。

音声はないが、映像は全く編集されておらず

ただ撮影者の目線で撮られている。

ホームビデオのような映像だ。

「一体どこがいわくつきなんだよ……。……ん?」

唐突に場面が変わった。

画面の中央には井戸があり、井戸の背面には大きな社があった。

先ほどと同じで、特別な編集は施されていない。

白黒映像だ。

「はは…。…リ●グかよ…」

しばらく見ていると、Aはぎょっとした。

着物を着た少女が次々と井戸の中に放り込まれていくのだ。

少女達は抵抗しているらしいが、周囲の羽織袴を纏った男達によって次々と投げ込まれていく。

これはいったい、どういう企画だったのだろう。

不気味で不可解な映像を、Aは疑問に思った。

(それにしても…、たったこれ一本のためにこんな大げさな…。

隠すほどの映像なのか…?)

早送りをするため、キーボードに手を伸ばした。

そのとき、

「なんだこれ…。どうやって撮影してるんだ?」

突然、アングルが少女を投げ込んでいる男の目線に変わったのだ。

いったい誰が撮影しているのだろう。

すると、また社と井戸だけの風景に変わった。

「それにしてもこの社…」

Aは自分の背後にある古ぼけた社のことを思い出した。

すると突然、アングルが井戸の前に変わったと思った瞬間

ちょうど井戸の中を覗き込むような角度になった。

「う……ぁ…あ……っうわあああああああああああああああ!!!!!!」

Aはパソコンをひっくり返した。

井戸の中にはAの顔が映っていたのだ。Aはそのまま意識を失ってしまった。

(ここはどこだ…)

目を覚ますと、周囲が暗いことに気づいた。

(背中が痛い。ここはどこだ…。暗い…狭い……。…何も見えない…。それに…嫌な匂いがする。

いったいここは…自分はどうしていたんだ…?

そうだ、…そう言えばあのフィルムを見て…)

不意に、上の方から一筋の光が差し込んできた。

そのとき初めて、自分はかなり長い穴のようなものの底にいるのだと気づいた。

急な射光に目を痛めながらも見上げると

丸い穴の周りをぐるりと囲んだ状態で、白い顔をした大勢の少女たちが

ニタリと笑ってAを見下ろしていた。

(………っ……! そうか……あの鳥居は……あの台は……井戸………………)

Aが行方不明となり、一週間ほどが経った。

「また今年も犠牲者が出たか…」

(…誰かの足音だ…。話し声もする…。これは…部長の声だ…)

「しかし、誰かがそうならなければならないんだ。

そのために、毎年数人は身寄りのない者を採用しているんだからな…。今年は少なかったから焦ったよ…」

「A君はやる気のある良い新人だったんだがなあ…。好奇心旺盛で、ちょっと無鉄砲なところがあって…」

「いくら良い新人でも…勝手に上司のデスクを探るのはどうかと思うがね」

(部長…! 俺はここだ……ここにいる…! 助けてくれ…!

なんで声が出ないんだよ…! なんで…なんで俺が……ッ…助けてくれ……!)

「来年はお前の部署から出してくれよ」

「分かっているよ。さあ、線香も立てたことだし帰るとするか」

「社長、今年も終わりました」

「……そうか…御苦労だったな。供養も済ませたのか?」

「はい。来週、改めて宮司に来てもらいますが…まずは私と営業部の久遠で線香を…」

私は内心、この社長が憎くて仕方がなかった。

毎年毎年、訳の分からない呪いの所為で罪もない新入社員を殺さなければならないのだ。

私はAの人柄を買っていたのだ。

『俺って親がいないから、部長のことは父親みたいに思ってるんスよ』

(すまない……)

「社長、私は詳しくあのテープのことを知らないのですが…

そろそろ教えていただけないでしょうか」

社長はしばらく黙っていたが、私の目を一瞥すると

ようやく語り始めた。

「…いつも線香を手向ける台があるだろう。鳥居の中に。

あれは、井戸なんだ」

「…井戸…?」

「今は蓋をして、その上からセメントとタールで塗り固めてあるから分からんだろうが…

昔はあの場所に神社があって…その中に井戸があったそうだ…。

この会社を作る前、ここには紡績工場が建っていた。

土地を買い取る交渉の際に……経営者は最初渋っていたんだよ。

最初はこちらが提示した額では足りないということかと思っていたが、

どうやら違うらしい。

問い質すと、この土地は呪われていると言い出した。

おそらくあの工場でも毎年一人ずつ送っていたのだろうが、

そのことはさすがに言えなかったようで、破格の値段で譲ってくれた…。

私は最初、呪いのことなど毛頭信じていなかったから…あの鳥居も井戸も取り壊そうと思っていたぐらいなんだ。

しかし、一年経たない内に私の子どもの気が狂い…、妻は自殺をし……

副社長も精神を病んで自殺してしまった。彼の家族もだ。

これは何かあると思い、私は前の経営者を問い詰めた。すると…恐ろしい呪いの連鎖について聞かされることとなった」

私は、その恐ろしい呪いの連鎖とやらを最後まで聞いた。

あの神社よりも井戸の歴史の方が長いらしい。

江戸の末期、この辺りには大陸から渡ってきた者だけが暮らすという集落があったらしい。

普段からあらゆる差別を受けていた彼等は、ある日蜂起し、周囲の村を襲いに行ったが

すぐに制圧されてしまい、逆に集落を襲撃された。

男は殺され、女は犯され、子供も殺された。

その際、男児はすぐに殺されたが、女児は凌辱された後に井戸に投げ込まれたらしい。

女の血は汚れているため、生きたまま井戸へ放り込み、蓋を閉めたということだ。

それから何年か経つと、この土地で悪いことが続き、捨てられた子どもたちの呪いだということになった。

そのために神社を建てたが…それでも良くならないもので…村人は毎年祭りを行うことにした。

それから毎年、生贄として井戸に少女を投じるという忌まわしい風習が続いてきたが

生贄として使われたのは、特に貧しい身分の少女ばかりだったという。

そうした行いが更に怨念を増幅させているのではないかと社長は言っていた。

「なぜビデオテープがあるのですか?」と訊くと、社長は青ざめて

「あれは元々写真だった…。前の持ち主から受け継いだ物だ。

写真を入れた封筒を最初は金庫に入れていたが、いつの間にかあのテープになっていた…。

写真もテープも、どういった経緯で存在するようになったのかは分からないが…

写真自体はおそらく昔の祭りの風景を撮ったのだろう…」

と、話してくれた。

(…まさかあの社長が…そんな過去を持っていたとはな)

私の足は思わぬ方向に向いていた。

倉庫である。

「…こんなものの所為で…」

倉庫の階段を駆け下りると、私はじっと鳥居を睨んだ。

線香の燃えかすを踏み散らかしながら、井戸の上に機材を設置する。

金庫からテープを取り出し、私はついに再生のスイッチを押した。

怖い話投稿:ホラーテラー ボウモアさん  

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