はじめて投稿します。
5年前まで建設業界で営業をしていた者です。
今は実家に帰らなければならない事情で転職をしましたが、以前の仕事で起きたことを書いてみようかと思います。
前の仕事はいわゆる飛び込み営業というもので、相続税対策でアパートを建てませんか?と地主さんを訪問する仕事だった。
ひたすら神経すり減らして仕事をすることに結構苦痛もあったけど、時々優しくしてくれるばあちゃんとかいると結構癒される仕事。
ある一件のお家に初めて飛び込むと、母屋とは別の納屋みたいなところにも部屋があるみたいだった。
母屋は呼んでも誰も出てこなくて、出直そうと思ったら納屋から70位のばあちゃんが出てきた。
初対面だから会社名言って挨拶したら凄く
いい感じの人だった。
色んな世間話をして、人間関係を作るためにも毎日通ってた。
相続って色々な人が絡むもんだからどういう家族構成か聞かないと始まらないんだけど、家族の話を振ると急に黙り出すんだ。ばあちゃん、納屋にいつもいて、母屋にも住んでないみたいだから複雑な事情があるのかと思った。
抑えるべき人間間違えたかなーなん感じてた。
でも不思議なんだよね。いくら時間帯とか曜日ずらしても、いっつもばあちゃんしかいないんだ。
近所でも仲良くなったばあちゃんいて、その家のこと聞いたら息子さんがいることは分かった。
どうやらおじいさんは2年位前に他界してるようで、その家には2人しか住んでないことが判明した。
ただおかしなことにここ2カ月位近所の人は息子さんのこと誰も見ていないらしい。
変に財産持ってると、働かなくなる息子とかが出てくるみたいだけど、まさにそういう感じらしかった。
でもそんな息子さんでも近所のスーパーとかは出歩くし、散歩もする人だったみたい。
なのに最近は全く見ないってのが近所歩いて集まった意見。
調べてみるとこのお家はあまり土地も無く、そこまで仕事としてどうこうっていうお客さんでは無いって上司からも判断された。
通って1カ月半位。慣れてればもっと早く見切るつけるんだろうけど、新人だったから、どうにかして息子と会わないと気が済まない衝動に駆られてたんだと思う。
それに息子が全く最近目撃情報が無いのが凄く気になってた。
もうちょっと通ってみようって当時の俺は思ってしまった。
よくみんな、
「本当にやめておけば良かった。」
って言うけど、その通りだった。
小雨が降っていたちょうどこの季節。
いつもみたいに訪問すると、今まで一度も不在だったことが無かったばあちゃんが、どこからも出てこなかった。
実は訪問して仲良くなってたこともあって、納屋の方にある部屋には時々上がりこんではお茶もらったり菓子もらったりしてたんだ。
だからいつもの感じでドアを開けたんだけど、部屋が凄くひんやりしてたんだよね。
石油ストーブはあるんだけど、今日は使ってないんだろうなって位部屋が寒かった。
まあ、どこか出かけることもあるんだと思ったから帰ろうと部屋を出たんだ。
そしたら庭先から母屋の二階を見上げたらばあちゃんがいたんだよね。
思わずばあちゃん呼んだんだけど気づいてもらえなかったんだ。
よく考えれば母屋にいたっておかしくないから、とりあえず母屋の玄関を開けて挨拶してみた。(田舎って玄関あけっぱなしだから普通に土間まであがって挨拶したんだ)
でも、全く返事が返ってこない。
すると二階から何か倒れるような大きな音がした。
普通なら人の家に勝手に上がってしまってはいけないことだけど、その時の俺は純粋にばあちゃん倒れたかと思ったから、一瞬躊躇ったけど二階に上がっていったんだ。
階段の隅に盛り塩がしてあったことが不気味だったのが本当に印象的だった。
俺が二階で見たものは現代の闇と家族の愛情の縮図だったと思う。
二階に上がると、ばあちゃんの念仏を唱える声が聞こえてきた。
よくある怖い話みたいな展開で本当に自分でも書いていて申し訳ないんだが事実を残します。
二階は思ったよりも狭く、多分2部屋位しか無かったと思う。(はっきりしなくてすいません。全ての部屋を確かめたわけではないので)
手前の部屋はがらんとしていて8畳位の畳の部屋だった。
声が聞こえるのはその奥の部屋だった。
障子の向こうから止むこともなく声が聞こえ続けていた。
この段階で、絶対に息子は確実に絡んでいて何か呪われている系なんでしょ?って思ったから、引き返す気満々で方向転換したんだ。
そしたら声がぴたっとやんで。
「誰だ」
って障子の向こうからばあちゃんの声が聞こえてきた。
かなり迷ったけど、勝手に上がっちゃったこともあったから謝りたい気持ちもあって返事したんだ。
「俺だよばあちゃん。○○建設の○○○だよ。」
障子が開いた。
ばあちゃんは困惑しながらもすぐにいつもの笑顔でどうしたんだいって言ってくれた。それが唯一の救いだった。
普通の展開ならここで呪われた息子が襲ってきてーーーーって展開かもしれないけど、違かった。
俺がここに載せた話しは霊的な事では無い。
ばあちゃんは笑顔を見せながらも俺に中が見えないように障子を締めた。
凄く気になったんだけど、深く詮索は出来なかったから、そのまま二人で納屋の方の部屋に戻っていったんだ。
いつもの感じで話をしていると、ばあちゃんが意を決したように言ってきた。
「あんたはあの部屋のことが気になるのかい?正直言ってみなさい。あんたになら話せる。」
凄く踏み込みにくい部分をいともたやすくばあちゃんから切り出してくれたおかげで、俺は頭の中で用意していた、あの部屋を聞き出す流れを全て失った。
「ばあちゃん、話したくないなら無理にはいいけど、俺でよければ何か出来るかもしれねえよ?」
本当は聞きたくてたまらなかったが、なんとなく真相を聞くのが怖くも感じていた。
だけど、これを書いているってことは真相をやはり聞きたい気持ちが勝っていたんだね。
「分かった。あんたには話すよ。実は家の息子は呪われてんだ。」
ほらきた。
なんか、見てくれてる人、ありがとうございます。なんか嬉しいです。
「ばあちゃん、呪われてるってどういうことだい?」
正直俺は意味が分からなかった。
呪いなんて言葉は、別れた彼女とかに、一生呪ってやるって言われたことがあるくらいだ。
それが現代社会で真顔で言われることは予想外としか言いようがなかった。
ばあちゃんが続ける。
「うちの息子が少し前からいきなり一日に何度も食事をとるようになって、物忘れも激しくなったんだ。しまいには赤ん坊みたいに泣きじゃくるようになっちまったんだよ。」
それってボケてるだけなんじゃ・・・
俺が思ったのはそれだけだった。
「ばあちゃん?多分ね、それって息子さん少しボケちゃっただけなんだと思うよ。呪われてなんかないよ。」
「んなこたあない。隣の○○さんも近所の人もみんなそう言ってる。だからみんながあそこで念仏唱えれば大丈夫だからって。」
正直意味が分からなかった。時代はどんどん進化しているのに、呪いって言葉がこの地域には存在しているのだろうか?
でも。
ばあちゃんは真っ直ぐ俺を見ている。
本心だ。そうとしか思えない。
だったら俺の常識こそがズレているだけなのかもしれない。
だったら。
「ばあちゃん。俺を息子さんに会わせてくんねえかな?実は俺のおじさんも呪われて死んじまったから、色々詳しいんだ。」
嘘だった。おじは誰も死んでなかった。
呪いって認めてあげれば、ばあちゃんはきっと心を開いてくれるって確信がなんかあった。
一点だけ確かめたかったことがあったんだ。
「びっくりしないかい?あんたまで呪われるかもしれないよ?それでもこのおばあを助けてくれるのかい?」
任せてよ。俺はばあちゃんともう一度母屋の二階へと向かっていった。
先程は締め切られていた障子の向こう側を見たとき、俺は言葉が出なかった。
吐き気がした。
俺が考えていることがもしも当たっているとしたら、なんて悲しいことなんだろう。
その息子は犬の首輪をつけられて柱に繋がれていた。
頭には頭巾が被せられてお札のようなものが縫い付けられてあった。
おそらく排泄はおむつで済ませているのだろう。食事もざんぱんのように床の畳にこびりついていた。
部屋の匂いは文章では伝えきれないほどのものだった。
いかれてる。
素直にそう思った。
ばあちゃんは隣で念仏を唱えだしていた。
目にいっぱい涙ためて泣いていた。
俺は嫌な予感を確かめなければいけないと思ったんだ。
けど、本当に知りたくなかった。
この日から2日後、俺は仕事をやめて田舎に帰ろうと決心することになる。
頭巾の下から泣き声のような叫び声のような声が漏れていた。
時折、おかあさんって呼ぶ息子さんらしき人はおそらく40代後半から50代なんだろう。
あくまでもばあちゃん
の年齢からの判断だけれど。
「ばあちゃん、俺に出来ること考えてみるからな。ちょっと待ってて。」
俺はその足で隣の家に満面の笑顔で訪問したんだ。
こんにちは。
そこで出てきたのは以前、首輪に繋がれている息子の目撃情報を教えてくれたおばあさんだった。
俺はかまをかけることにした。
「いやー、前にお話伺ったお隣さんの息子さんなんですけど、少し離れた病院で入院しているみたいですね。スーパーのお兄ちゃんから聞いたんですけど。」
確実に不機嫌な顔をしたおばあさんが答える。
「そうなんだ。具合悪かったのね。お気の毒だわね。御主人さんも他界されてるのに。」
こいつからはまた聞き出してやる。
もはや仕事ではなく別の感情で近隣を訪問しまくった。
みんな同じリアクション。
だが一人だけ、俺が求めていた答えをくれた人がいた。
その人は元々この地域に住んでいた人ではなく、新しく移り住んできた人であった。
多くの場合、地主さんは住んでいる所が固まっている。そこは部落と呼ばれていたり呼び名は様々だが、つまりは元々の地主さんは比較的近い場所に固まって住んでいたのだ。
そして時代の変化と共に持っている土地を土地活用としてマンションを建てたり、分譲地として業者を介して売り出したりしてきている。
話を戻そう。
その人は分譲地を以前購入して住んでいる人である。
その人が言うにはこうだ。
おばあちゃんの亡くなった御主人は酒癖と金遣いが酷く荒く、この近辺ではかなり有名だったらしい。
いつもおばあちゃんが謝って回っていたらしいのだ。(その人も近所の噂話で聞いた部分も色々あるみたいだった)
そんな御主人も腰を悪くしてから一気に元気が無くなった。
亡くなるまではあっという間だったらしい。
近所の人はこぞっておばあちゃんの今までの苦労をねぎらったという。
ただ一人を除いて。
それがあのお隣さんだ。
いつも直接の被害が来るのはお隣さんだったらしい。
ただ、その御主人は気性が荒く、お隣さんの御主人は早々に亡くなっていたので強く言えない部分が多かったらしい。
「息子がボケちまったみたいなんです。」
2か月ほど前、おばあちゃんはお隣のばあさんにそう言ったらしい。
隣のばあさんは近所のおばあさまをみんな家に集めて集会を開いたらしい。
「積年の恨みを今こそ晴らそう」
元は大地主。近所のおばあさまはお隣のおばあさんに逆らえなかったようである。
(田舎特有の繋がりは強いところは本当に強いようである)
そうして
「お宅の息子さんは呪われている。」
地域で息子さんを呪われたものとして扱うことになったらしい。
あの頭巾を被せたのもお隣さん。首輪をつけたのもお隣さん。
ただ、近所のおばあさま連中もその場にいたらしい。
どうやら悪い予感がなんとなく当たってしまったようである。
凄く嫌だった。人間の黒い部分を見てしまった。
近所のおばあさま連中はお隣さんに逆らえず、息子の存在を「最近見ていない」の一言で片づける。
その地域の若い世帯はほとんどが便利な地域に移り住んでいて、この一帯はあまり若い人が住んでいなかった。
だから、年寄りの下らない行いを止める若夫婦なども同居していなかったのである。
お隣さんはおばあちゃんに対して、呪われた息子と断定する。
じゃあおばあちゃんは??
おばあちゃんの本心は??
分からないとすればその一点だけだった。
色々な気持ちを持ちながら翌日、ばあちゃんの家を訪問したんだ。
「ばあちゃん。」
いつもの納屋の部屋。ばあちゃんはせんべいを食べていた。
「よう来たねえ。お茶入れるから待っときなね。」
いつもの心遣いが辛かった。俺が話そうとしていることはおばあちゃんを追い詰めてしまうんじゃないだろうか。
そんなことを考えて話していたら30分近く経ってしまった。
言いたいことも聞きたいことも切り出せない俺とばあちゃんは、付き合いだしのカップルみたいに遠慮しあってた。
きっかけはおばあちゃんからだった。
「昨日はびっくりしたでしょ?ごめんね。息子が呪われてからは毎日三時位になると、ああして念仏を唱えるだよ。ばあちゃん、呪いが移ると息子の面倒見れんからこっちの部屋に移っただよ。」
ばあちゃん。嘘つくなよ。目が赤いよ。
「ばあちゃん。お隣さんに言われたこと、信じてないんだよな?本当はただボケただけって分かってるんだよな?な?」
ばあちゃんは涙声でこう言った。
「そんなことない。うちの子は呪われてるんだ。呪われた子は私がね、面倒みなきゃならんのよ。」
ばあちゃんはお隣さんや近所の人に申し訳ない気持ちでこの状況を受け入れているだけだと思った。
ばあちゃんに、財産の整理してまとまったお金入ったら老人ホーム入るとか、息子さんに入ることも勧めてみた。
老人ホームとかそういった知識無かったけど、いくらでもどうにかなると思った。俺が勉強すればいいだけだから。
ここにいるよりはいいって思ったし、今振り返ってもそう思うよ。
ばあちゃんにまた来る旨を伝えて会社に戻った。
俺じゃ土地の売買とかそういったこともどうやればいいか分からなないから、直属の上司に相談した。
返ってきた言葉はこうだった。
「うちにメリットがあるか?二束三文にしかならない土地売っても仕方ないんだよ。俺らは建築がメインだろ。くだらないことに時間を使うな。
おまえ、明日からエリア換えるぞ。」
俺はもうばあちゃんと関われなくなった。
でも休みを利用してばあちゃんのところに訪問したんだ。
でも、ばあちゃんは前と少し雰囲気が違ってた。
「あんたのこと嫌いじゃないよ。でもね、私は先祖が残してくれたこの土地で生きていかなきゃじいさんに申し訳ないんだよ。だから、私たちのことはもうほっといてくんな。もう来ないどいてくれ。」
ばあちゃんなりに必死に色々考えた結果だから俺はそれ以上何も出来なかった。
誰に何を相談すればいいか分からなかった俺は、とりあえず役場に行って、ばあちゃんの家の息子さんが少し具合い悪いみたいだから、定期的に見回りしてあげてくれって頼むことくらいしか思いつかなかった。
こんな話が続いていたせいで、実家の両親が気がかりだった。
家の実家も田舎だ。こんなにひどくはないかもしれないけど、何かあったら大変だと思った。
長男だし、実家に戻ろう。そうも思ったんだ。
あとは、この仕事の難しさも思い知った。
助けたくても仕事にならなければ助けられない人もいる。
あの時の上司の判断は会社側からすれば至極当然の判断だとは思う。
けれど、そこに人間味が感じられなかった。俺はずっとこの仕事を続けていけないと思った。
ばあちゃんには置き手紙だけ残した。
お隣さんは個人的には何か一言でも言ってやりたかったが、ばあちゃんが余計苦しむだけだと思うと、何も出来なかった。
ばあちゃんに最後に追い返されて1カ月後にはもう辞表を出したんだ。
5年がたって、今は実家で嫁をもらって会社勤めをしています。
ここで子供も生まれます。
今回投稿するきっかけは、このばあちゃんの家を訪れたからです。
どうしてもあれからどうなったか気になっていました。
嫁を連れて旅行しがてら寄ってみたのですが、もうあの納屋も母屋も跡形も無くなっていました。
無残にも売り地の看板が建っていました。
俺のことを覚えていたらしくお隣も近所の人もろくに口も聞いてくれずに玄関先で追い返されました。
話を聞けたのは5年前も色々と教えてくれた分譲地の奥様でした。
3年程前、ばあちゃんは急に亡くなったそうです。
原因はその人も知らないとのことです。
息子さんはどこかの施設?みたいなところに行ったらしい。
あっという間にばあちゃんの土地は更地になったそうです。
嫁に昔話をしていたらホラーテラーに載せてみるのもいいかと思い書かせて頂きました。
あの時の僕の判断が正しかったのか分かりません。
ばあちゃんがどんな気持ちで亡くなったのかも今では分かりません。
ただ、あの仕事をして思ったことは、たとえ家族間でも思いやりが無い家は多く、暮らす以上、近所の方との付き合いも大変だということが本当に分かりました。
全く怖くもありませんでしたが、霊的な怖さではなく人間って怖いなって所がホラーテラーに載せる資格があると個人的に判断してしまいました。
不適切な文章でしたら管理人さん削除をお願いします。
拙い文章にお付き合い頂いた皆様ありがとうございました。
怖い話投稿:ホラーテラー セロさん
作者怖話