中編3
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それぞれの事情

① 彼氏の事情

最近彼女の様子がおかしい。

鬱、というより、少しイカレテしまったようだ。

どうやら僕が密かに浮気しているのを知ってしまったらしい。

だが、僕としては彼女がどうなろうと知ったこっちゃ無い。

僕の中ではもう既に「元彼女」という存在でしかないからだ。

丁度いい、これを理由に上手いこと周囲を納得させて別れよう、ぐらいにしか思っていない。

それにしても、彼女は僕から見ても哀れな状態だ。

鏡の中の自分と会話し、両手足をまるで別人の物のようにばらばらに動かしてみたり、泣きながら笑っていたり。

僕はそんな彼女が薄気味悪くなって、まともに意思の疎通が出来るうちに別れ話を、と思っていた矢先の事。

僕はベッドに寝かされ、身動きが出来ない状態で目覚めた。

彼女が僕の傍らに立ち、笑顔で涙を零しながら見下ろしていた。

右手に包丁、左手に大きな鋏、自傷したのだろうか、所々衣服が赤く染まっている。

彼女は目を閉じ何か呟いているが、アクションを起こさない。

短い時間で色々な感情が沸いてきたが、最後に僕の心に残ったのは「後悔」だった。

僕は、本当は、本当に彼女の事を愛していたのかもしれない。

僕は静かに目を閉じた。

② 彼女の事情

最近彼の様子がおかしい。

浮気しているのは知っているけれど、このところその事実を隠そうともしない。

彼のことは愛している、と思っていたけれど、もう無理かもしれない。

私は鏡に向かって自問自答してみた。

そんな姿を彼に見つかり、殴られたり蹴られたり、時には命の危険すら感じて滅茶苦茶に抵抗したりもした。

その動きが彼にしてみれば面白かったらしく、嘲笑され、「一緒に笑え」と言われたこともある。

私は笑った。

楽しかった日々を思い出し、泣きながら。

別れを決意したその日に、彼から連絡が。

彼はベッドに横たわっていた。

もう一人の彼が、時間が無いからこのロープで身体を縛ってくれ、

と私に告げる。

私は躊躇したが、もう一人の私はロープを受け取り直ぐに作業を始めた。

破滅

私は作業を終えた私に、ロープを切る為に用意された鋏を突きつけた。

手遅れだった。

もう一方の手に包丁を持ち、彼のベッドに向かう。

泣いている筈なのに笑っていた。

私は静かに目を閉じた。

③ センセイの事情

「ほう、これは珍しい。」

私は司法解剖した遺体(女性)を一瞥すると、思わず呟いてしまった。

一般的にはあまり知られていないが、

脳の奇形

は結構な確率で発生している。

今回のモノは、脳が四つに割れているという症例。

右脳、左脳がそれぞれ二分割されている。

もちろん、均等なサイズではなく、メインが9、サブが1、程度である。

レントゲンやMRIでは、単なるシワでスルーされる。

脳機能的には、何の影響も確認されていないからだ。

2体続けて同じ症例。

これが医師を唸らせた理由である。

先に解剖した遺体(男性)との関係を聞き、医師は更に興味深く頷くのだった。

 終

怖い話投稿:ホラーテラー ジロウさん  

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