中編6
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虫の知らせ

東北の地元であった実話です。

俺がまだ小学生の頃、東北地方で突風のため列車が脱線して転倒する被害がありました。

学校は休校になり、ごうごうする雨風の音を聞きながら家で俺は暇つぶしにマンガを読んでいた。

すると、いきなり父が長靴の足音をドガドガと鳴らして、ずぶぬれの雨合羽のまま、

「大変だ!大変だ!」って、真っ青な顔で家に入ってきた。

俺「どうしたの?」

父「向かいのばさまがいなぐなったあがぁー!!」

標準語で『お向かいの家のおばあちゃんが居なくなってしまった。』です。

方言でわかりにくいところは、標準語で書きます。

読み辛くて申し訳ないです。

父「ばあさんが夕べから姿見えなくて雨風の中探している。

はだしで寝間着のまま出た様子だ。

この天気だからみんな心配して探しているんだ。

警察や消防も探している。

まだ何も見つからない。

昼飯食ったらまた探す。」

父は昼ご飯をかっこんで、お茶をすするとあちこちに電話をかけてやりとりした後、血相を変えて出て行った。

「俺も行く」と言ったが、父から

「子供は足手まといになるから家にいろ!」とキツく言われ、しょんぼりと窓から向かいの家を見てばあさん大丈夫かなぁと心配していた。

向かいのばあさんはふだんは一人暮らしだった。

ばあさんの息子さんは関西の方面に出稼ぎで、盆と正月に見かけることがあった。

時折、ばあさんから手作りのお惣菜をおすそ分けしてもらっていた。

いなくなる数日前にも「鱈(たら)のソボロを作ったら作りすぎたから。」って家に持ってきてくれた。

ばあさんとうちの家族はほとんど毎日顔を合わせていて、親しく近所付き合いをしていた。

ばあさんの作ってくれた鱈のソボロは鱈の白身部分をほぐして炒り煮したフレーク状のお惣菜。

アツアツの作りたてで鱈の風味が香りよく、絶妙の塩加減で白い飯にかけて食べた。

何度もおかわりしするくらいうまかったのでよく覚えていた。

俺はやさしかったばあさんの笑顔を思い出し無事を願った。

何もせずにいられなくて、とりあえず俺は妹とてるてる坊主を作ることにした。

軒先にてるてる坊主を吊して、天気が良くなりばあさん早く見つかりますようにって心から祈った。

しかし、天気は回復してもばあさんは見つからなかった。

ばあさんの息子さんの関西の勤務先へ連絡したが、所在不明で連絡がつかなかった。

警察や消防にばあさんの捜索を依頼したのは地区長だった。ばあさんをはだしで寝間着姿で歩いている所を見かけ、心配して声をかけようとしたら、ばあさんは不自然に溶けるようにグズグズと消えてしまった。

虫の知らせと感じて、すぐにばあさんの家に向かった。

何度も玄関で大声で呼んだが反応がなく、鍵がかかっていなかったので

「ばあさん。じゃまするよ」って家に入った。

居間へ入ると、飲みかけのお茶と急須があり、テレビがついていた。

普通にちょっとトイレに用足しに行っただけの様子だった。

どこからひょっこりばあさんが出てきそうだった。

地区長は家にばあさんがいないことを確認すると、警察や消防へばあさんが居なくなったと駆け込んだ。

警察では事件性がないため失踪届を受理されただけで、ばあさんを捜すのは難しいと言われたそうだ。

地元の消防団と近所の有志で捜索を始めた。

父も早朝や日曜などに体が空くと、普段地元の人たちもあまり行かないような薮や沢なども探して回った。

また、地元のタクシーやバス会社、駅に問い合わせたが、ばあさんが利用した記録や見かけた人は全くなかった。

日が経つにつれて、捜せば捜すほど手がかりとなるものは全くなく「神隠し」とはこういういなくなり方をするのではないかと言う人もいた。

結局、3ヶ月ほどで行方不明のまま捜索は打ち切られた。

それから8年後、ばあさんの家は取り壊され更地になった。

俺は取り壊すことを知らなかったので驚いて母に聞くと、

「少し前に地主さんがばあさんの息子さんに連絡が取れて、更地にすることを承諾してもらったそうよ。

もともと借地で契約更新しても、実際に暮らす人もないから仕方ない話だろうけれどね。」

と寂しそうな表情で教えてくれた。

そして更地になって間もない頃の明け方、どこからか高い声が繰り返しフレーズをつけて聞こえた。

盛りが来た猫の声かと思った。

俺はうとうとしながら(何だか気になるなあ)と思った。

そのまま眠気によって意識がなくなりかけた時、

「ごめなしぇんしぇ~~っ(ごめんください)。

ごめなしぇんしぇ~~っ。」

と、カン高い声で繰り返し言いながら、いつの間にかばあさんが俺の足元に正座していた。俺は恐怖で全身が総毛立ち、金属音のような耳なりがして金縛りになっていた。

ばあさんは俺に向かって、

「ええなぁさぁ…ん。(だんなさん)頼むではぁ…。(頼みます)」

と言って、横をむいて向かいの家があった更地のある方の窓をゆっくりと指差して消えた。

俺は突然の恐怖で固まったまま、『だんなさん。頼みます。』って一体何だろうと必死に考えた。

そして、俺は思い出した。

ばあさんが家によく来ていた頃、祖父や父を「ええなさん」と呼んでいた。

思えば、祖父や父ばかりではなく大人の男の人に対して「ええなさん」とばあさんは呼んでいた。

ばあさんの口癖だった。ばあさんは俺に何か頼みたいことがあるのだろう。

とりあえず、体が動けるようになったので起き上がると、ばあさんが指差した向かいの更地側の窓を開けて見た。

その更地には初めて見るグレーの車が駐車されていた。

近所で車を持っている人は知り合いなので大抵の持ち主はわかるから、誰の車だろうって不審に思った。

ばあさんの指差したことがまた頭に浮かび、気になって急いで着替えて見に行った。

今思うと、ばあさんに呼ばれた感じがする。

その車は関西ナンバーで車種はよくわからないが、ワゴン車だった。

車体がかなり汚れていてバンパーの角が擦り傷だらけだった。

後ろから回り運転席に近づいて俺はようやく異変に気がついた。

車がブスブスと燃えていた。

どうにかフロントガラスから見えた運転席の人はもはや人の形はしていなかった。

黒い塊が転がっているように見えた。

イヤな匂いの煙も登っていた。

俺はその場から離れ、消防と警察に通報した。

そして、家族をたたき起こして向かいの空き地にある車が燃えていることを伝えた。

消防が到着し警察に詳しい事情を聞かれた。

空き地の車の中で、向かいのばあさんの息子さんは灯油をかぶって焼身自殺をしたのだった。

遺体の損傷は酷く一部分は白い骨が見えていたそうだ。

自殺をする数日前にばあさんの死亡届を出していた。

理由はわからないけれど、身辺整理後の覚悟の上で選んだ道だった思った。

地区長や地元で捜索に関わっていた近所の人たちで、ばあさんと息子さんの二人の葬式をすることになった。

ばあさんが知らせてくれなかったら、もしかしたら車が爆発して近所にも被害が出たかもしれない。

父に俺の部屋にばあさんが来たことを話しをすると、

父は「そうか…。」と言って泣いていた。

向かいのばあさんと息子さんの成仏を願って、地元のお寺さんでみんなで見送った。

お寺に納めていただき、それから何事もなく過ごしています。

もし、同じような体験をされた方がいたら、差し支えない範囲で伺いたいと思っています。

よろしくお願いします。

怖い話投稿:ホラーテラー 十六夜さん  

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