中編5
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水の音

今から12年ほど前の出来事です。

当時、僕はある配送会社に勤めていました。

その会社では、1人1台のワンボックスカーを専用車として与えてくれ、仕事はもちろん、仕事が終わってからのプライベートでも自由に使わせてくれました。

当時の僕は自分の車を持ってなく、当時付き合ってた彼女とのデートは、いつも会社の車を使ってました。

12年ほど前の、お盆休みのある日…

彼女と夕方から会って、

『今日は何しよっかぁ〜?』

と話をしながら、楽しいことを探していました。

話をしてるうちに、ふと頭の中に《蛍を見に行こう》という案が浮かび、彼女に言うと即OK!

『どっか蛍が見れる所あるかな〜?』

と2人で考えてると、僕が数年前に、友人とドライブに行った時に、凄くいっぱい蛍が居て、凄く綺麗だった場所があったことを思い出しました!

今居る場所から1時間半くらいで行ける場所だったので、それを彼女に言うと、これも即OK!

ということで、2人で会社の車に乗り、目的地である《ある山》へと向かいました。

車を走らせて1時間くらいすると、だんだんと人通りが少なくなり、片側1車線の山道へと入って行った。山道を上り始めて15分くらいすると、左手に細い舗装されていない道があり、その道をゆっくりと進んだ。

右手は山で、左手はガードレールは設置されてましたが、ガードレールの向こうは崖で、道幅は車1台がギリギリ通れるくらいの道でした。

その道に入ると電灯は一つもなく、車のライトが当たってる所以外は真っ暗闇で、何一つ見えませんでした。

その中をゆっくり進むと薄暗いライトの光の先に左カーブが見えてきました。

と、それと同時に、ガードレールに沿って歩いてる中年男性が居ました。

時計を見ると、夜中の12時過ぎ…

”こんな時間に、こんな真っ暗な道をよく歩くよなぁ〜”

と思いながらゆっくり進んで行くと、ライトの光が強くなるにつれて男性の姿がゆっくりと消えていったのでした!

『えっ!?』

と思わず声を出してしまった僕に

『どうしたん!?』

とビックリして言う彼女!

僕は以前から何度か幽霊を見たことはあるのですが、彼女は見たことなく、凄く怖がりなので

『いや、何もないよ!』

と言って男性のことは言いませんでした。

カーブに差し掛かり、左にハンドルを回し、再びゆっくりと進んで行くと、また左カーブが現れ、カーブを曲がると橋へとつながってます。

目的地とは、その橋のことで、橋の上から下を覗き込むと、橋の十数メートル下に小川が流れてて、以前来た時は、そこに数えきれないほどの蛍が見えました。

橋の上で車を止め、蛍が綺麗に見えるようにライトを消して、僕が先に車から降りて、助手席へと回ってドアを開け、

『この下にむっちゃ蛍がいっぱい居て綺麗ねんで!』

と言いながら彼女を降ろしました。

そして、橋の手摺りを掴んで下を覗いたら蛍の姿は一匹もなく、そこにあるのは真っ暗闇だけで、

『あれ〜』

と言った瞬間、橋の下から”ブワァッ”と一瞬凄い風が吹いたような感じがしたのと同時に、直感的に”ヤバイ!”と感じ、

『ゴメンやけど、急いで車に乗って!』

と言って彼女を車に乗せると、慌てて車を走らせて、その橋から離れました。

”焦ってスピード出して事故ったらアカン!”

と思いながら、スピードは抑えつつ車を走らせました。

細い道をなんとか抜けて、舗装されてる道に入ったので、僕は少し安心して運転し続けました。

しばらくすると…

《ピチャ ピチャ》

という音が聞こえてきました。

『何か水の音、聞こえへん?』

と彼女に聞くと

『何も聞こえへんよ!』

と言う。

その音を聞いてるうちに

《ピチャ ピチャ た…》

と小さな声が聞こえた気がしました。

”気のせいやろ!?”

と思いながらも、その音を聞いてると

《ピチャ ピチャ た…す…》

と小さな声がだんだんと大きくなってきて

《ピチャ ピチャ た…す…け…て…》

と女性の声でハッキリと聞こえてきたのです!

”えっ!?”

と思いながらも安全運転しなければとハンドルをしっかり握って、前方を見て、サイドミラーを確認して、バックミラーを見ると…

バックミラーには、凄い形相をした女性の顔が映ってたのです!

会社の車は、仕事柄、荷物を載せるために、後部席のシートは全部外して人は座れないようになってるし、走ってると揺れが凄いので乗れる状態ではないのです!

バックミラーを見た瞬間、僕は

『うわぁっ!』

と言ってバックミラーを反対にひっくり返し、少しスピードを上げて走りました!

『どうしたん!?何かあったん!?』

と心配そうに何度も彼女が聞いてきましたが

『何もないよ!大丈夫やから!』

と言って運転に集中しました!

山を降りて少し走った辺りで、後部席を見てみましたが、何も居ませんでした。

彼女があまりにも不安な顔をしてるので

『どっかファミレスでもあったら行こうか?』

と言って、走ってると、15分くらい走った所にファミレスがあり、そこに入ることにしました。

ファミレスの駐車場に車を止めて、エンジンを切り、ドアを開けた瞬間、車の中の空気がフワッと軽くなった感じがしたのと同時に

”もう大丈夫やわ!”

と思いました。

ファミレスに入ってすぐに彼女はトイレに行きました。

帰って来た彼女の顔は真っ青で少し震えてたので

『どうしたん!?』

と驚いて聞いてみると…

トイレに入ると2つの個室があり両方空いてたから、手前の方に入って扉を閉めると、すぐに誰かが入って来て、奥の個室に入ったみたいやけど、彼女が個室から出た時は、奥の扉は空いたままで誰も居なかったとのこと!

『気のせいやろ?』

と聞くと、泣きそうな声で

『人の気配もあったし、足音も聞こえたもん!』

と声を荒立てて言いました!

それを聞いて僕は

『実は…』

と今まであったことを彼女に話しました。

彼女は驚きながらも真剣に聞いてくれました。

もちろん、嫌な空気はなくなったからもう大丈夫とも言って、2人で再び車に乗って家の方へと走らせました。

それから数年後、ある霊能者と出会い、この話をすると…

『その女性は昔、その場所で殺された人で、今も元の場所に戻って同じ場所に居てるよ!』

と言われました。

怖い話投稿:ホラーテラー 天翔さん  

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