ちょうど一年前。
僕はコンビニでバイトをしていた。
深夜から明け方までのシフトが多かったが、この辺は、利用客もご近所の方が多く、物騒な事とは無縁で平和に働かせてもらっていた。
ある日の午前3時頃、珍しく県外ナンバーの車が止まり、男女が降りてきた。
男性の方はキチンとしたスーツを着ていた。
女性の方は長めのコートを襟を立てて着ていた。
僕は何か違和感を感じた。
女性の足元が裸足にサンダルなのだ。
長い髪で顔半分が隠れているが、顔色がよくない。
男性はサンドイッチやおにぎりを物色しながら、女性に何か言っている。
言葉はハッキリと聞こえないが、きつい口調で何か急かしているようだった。
何か嫌な予感がした。
女性がレジに近付いてきた。
僕は警戒しつつ女性と向き合った。
『すみません…トイレを貸してください。』
消え入るような小さな声で女性は言った。
軽く前髪をかき上げたため、隠れていた顔がちらっと見えた。
殴られたようなアザがあり、瞼が腫れていた。
『…!?』
驚いた僕が声を上げそうになるのを女性は眼差しで制した。
そしてさらに小さな声で、
『トイレは男女別?』と聞いた。
僕が頷くと微かに女性の微笑んだように見えた。
女性はトイレに行き、男性はレジに来た。
男性は無言だった。
午前3時に何一つ乱れのない格好で無表情、無言で立つ男は不気味でもあった。
やがて女性がトイレから出てきて、二人は車に乗り込んだ。
行きしなに女性が僕をちらっと見た。
僕はなんとなくトイレを確かめなければならないような気がした。
女子トイレに行ってみると
『私は〇〇〇〇
タスケテ。ケイサツ』と壁に口紅で書かれていた。
僕はすぐに店長に連絡した。
店長はいたずらの可能性もあると言ったが、一応、警察に連絡した。
あれから一年。
新聞にもテレビにも、それらしい記事はない。
あの女性はどうなったのだろうか…
いたずらなら、それでも構わない。
無事でいてほしい…
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話