長編8
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真夏のお昼休み

今年の真夏、現場での昼飯時だった。

「高校時代、ボク、ワンダーフォーゲル部に所属してたんっすよ。

って言うと、みんなそろって、ビックリしたみたいな顔して俺のほうを向いた。

「ウッソだろ!?“悪だー・暴力部”じゃねーのか?」って、

みんなの前で俺のことを徳さんが冷やかした。

大爆笑が起こった。

バツが悪くなって、俺は真っ赤になった。

俺はとっくの昔に更生したのに、どうしてもそんなイメージがひっついてしまってるようだ。

「お前サ、なんで聞いてもねぇのに急にそんなこといい出すんだよ?」

となりで、あぐらかいてラーメン食いながら、平さんが怪訝そうな顔して俺を覗き込んだ。

「いや…こうしてみんなが輪になって、メシ食ってると、急にあること思い出しちゃって…」

正面で弁当食ってたムコ殿が、

「それで、なんだよ…なんかいい話でもあったのかよぅ?」

上目づかいで俺にうながした。

ムコ殿は棟梁の妹のお婿さんで、ここでは親分格だ。

なんかかっこいい人だ。

俺はどうでもよかったが、

「全然いい話じゃないです。

それも…ちょっと寒くなる話なんすよ。

「ちっ!なんだよ!」

ムコ殿のとなりで弁当食ってた弁さんが面倒くさげな顔して俺をにらんだ。

ムコ殿はニッコリ笑って、

「別にいいよ。

今日も暑いからよ…ちょっと涼しくなる話、言ってみろよ!」

と、また俺をうながす

他の人たちは、ムコ殿がそう言うなら仕方ねえやみたいな様子だったが、俺のほうをみんなが注目したので、仕方なく話すことになった。

5年くらい前、ワンゲルのOB会の宴会が、ある高原スキー場の旅館であった時のことだ。

ビールや酒飲みながら、元顧問の先生を囲んでみんなでカニスキをつついていた。

けっこう伝統あるクラブだったから、年配の先輩達もいて、近況を話し合ったり、思い出話に花が咲いてたんだ。

とにかく、そこはカニの産地が近く、おそろしく美味かったことを憶えてる。

みんなスキーを終えて、ウェア着たままスリッパ履きでカニスキ宴会に突入していた。

気がつけば、白いスキーウェア着て、アフロヘアーっぽい髪型した先輩が俺の前にずっといて、カニの身とか、白菜とか全部取って俺の取り皿に分けてくれてた。

俺は恐縮しちゃって、

「先輩!自分のはちゃんと自分でできますから、先輩もなべ食ってくださいよ!」

と言ったが、

先輩は、

「いいんだよ!俺はしょっちゅう食ってるから、お前ら若いもんがいっぱい食え!」

と言って、鍋奉行をやめなかったんだ。

俺と同期は、顔見合わせて

「……………?」

とにかく、ひたすら食ってた。

先輩は、カニを殻から上手に取りながら、

「俺達が現役の頃はな、冬山行くとさあ…まっちゃん(顧問)からよくいじめられたよ。

まったく!今なんかスキーの板は軽いし、テントだってそうだろう?俺達んときはよ…板は年代物の2メートル10センチくらいあるボロボロのやつ、テントは重い、ウェアは先輩のお下がりだぜ!1年のときなんか、一日中テント周りの雪かきか、メシの準備ばっかで、ちっとも滑らしてもらえねーんだ!おめえらもそうだったろ?」

「ヤツ(顧問)はよぉーホント、自分のことばっか考えてて、俺達1年のことなんか、俺らの名前も覚えないで、自分だけ新雪のいい場所行って、気持ちよく滑ってたんだ!俺達同期でブツブツ文句ばっか言ってたよ。

それが一番の思い出だよ。

でもよぉ…ヤツあんだけ長いあいだ引率したっつうのに、一度たりとも遭難とかよぉ、そういうトラブルねーんだよ。

まぁあったら困んだけどさぁ…けっこういいかげんなやつだけど…不思議だよ~」

と、まっちゃん(顧問)をにらみながら、悪口・文句ばっかり言ってた。

まっちゃんは、5メートルくらい向こうにいたけど、先輩があんまり大きな声でいうもんだから、俺達は正直言ってビクビクしてたよ。

そしたら、先輩が突然俺達に聞いてきたんだ。

「お前らはよう…冬山のとき、○○高校の小屋まで行ってたか?」

「は、はい。

テントからもっと上ったところにありましたよね?一度だけ行きました。

結構きつかったっス。

ビール飲んで、真っ赤な顔した同期が答えた。

先輩は、

「だろー!?きついけどよーあそこからテント場まで新雪滑ると、頭ん中真っ白になるんだよぉ…最高の気分だったぜ!○○高校の山岳部のやつらにあいさつしてから、その足ですべんだよ。

俺が3年の時なんかよぅ…やりたい放題だったから、テントのお守は1年とかにやらして、勝手にそこまでスキー担いで新雪をよぉ、シューってすべんだよ。

そしたら途中で、どっかの大学山岳部のお姉さん方のテントがあってな。

とりあえずそこまで滑って、お姉さん方のテントにおじゃまして、お茶ごちそうになってテント場までまたすべんだよ!楽しかったなぁ!それをよう、一日に3回くらいやるんだよ。

そんで、3回目のときにお姉さんがたの連絡先おしえてもらって、今度一緒にスキーに行く約束すんだよ~!テント場への帰りはよぉ…何だかしらねぇけど、直径2メートル…いや…1.5メートルくらいかなぁ…ま、とにかくでっかい木があんだよ!それが道ふさぐように、ドーンと立ってる。

危なくてよぉ…そこだけはいやだったなぁ。

先輩達から今まで何人か激突して死んじゃってるから気をつけろよ!って言われてたけど、一度だけぶつかっちゃてよぉ…痛かったぜ!」

「でもよぉ…俺だけだったよ。

3年の時も冬山行ったの。

3年になったらよぉ、みんな進学とか、就職とかで忙しくなんだろ?だからさぁ、行かないわけだよ!ただでさえ面倒で、疲れんのにさぁ…いくわけねーよな!俺なんか実家の米屋の手伝いが進路だったから、その点気楽だったなあ!まぁ、でもいいもんだよ。

こうやって昔の仲間が集まってなぁ…鍋つっついて、酒飲んで…まっちゃんもよぅ…先生冥利に尽きるってもんだろ!長生きしろよって言ってやりたくなるよ。

ったくよぉ…うらやましぃ…」

と、一人で一気にしゃべったが、気がつくと涙を流していた。

俺と同期は、

「……………?」

ビール片手に呆然と顔を見合わせていた。

「あのぉ…先輩のお名前は…?」

俺がしびれきらして聞いた。

「あっ!オレ?ニ○カワってんだけどよ!昭和55年卒だよ。

わりぃけど、便所行ってくるわ!」と手を振って行ってしまった。

しばらくすると、先輩はトイレから戻ってきて、色んな先輩達と話していたように思った。

俺は苦手な酒を飲みすぎて、気がつけば部屋で眠っていたようだ。

次の朝、先輩方と一緒に朝めしを食った。

俺より先に同期はすでに先に食い始めていた。

先輩達は朝から伝統の○○山の冬山合宿スキーのことで話が盛り上がってるようだった。

メシ食いながら、俺も話を聞いていた。

例の大木で全身を強打して、山岳救助隊のヘリで病院に運ばれたが、

時すでに遅く、亡くなった女性登山者がいたらしい。

その人の幽霊を、タツミさんという先輩が見たという話のようだ。

タツミさんが新雪滑ってたら、古臭いウェア着た女が前滑ってる。

例の大木にみるみる近づいてったんで、タツミさんは思わず止まって様子をみた。

危ないって思ったら、直前になって見事なターンを見せて木立のなかに消えた。

そしたら、あっという間にタツミさんの後ろから、またその女がまた滑ってくる。

黄色っぽい土壁みたいな顔色だったと言うのだ。

タツミさんはついに見ちゃったと思ったら、それから、吐き気はするわ、熱がでるわで、スキーどころじゃなくなって、大変だったって話だ。

なんで朝からそんな話になったのか知らないが、俺はそれを聞いててメシを食う気がうせてきた。

『まったく朝から迷惑なんだよ!おめえら!』って、心の中で思いながら…

俺たちはOBの中でも若手だったので、遠慮気味に輪の中に参加していた。

俺はメシ食うのやめにして、お茶をすすりながら先輩達の話を聞いていた。

そしたら、OBの中にも卒業後その大木に激突して亡くなった先輩がいると、ある人が言い出した。

先輩達が誰だっけ、誰だっけ…と、悩みだした。

いつの間にか、まっちゃんがみんなの輪に加わっていた。

すると、ある先輩が、ニ○カワさんですよ、ニ○カワさん!って言い出した。

ニ○カワさんって、昨日あったばっかりだ。

その先輩は気づいてなかったが、俺はそいつをにらみつけた。

『人を勝手に殺すな!バッカヤロ~!』とキレかけた。

が、ニ○カワって名前も少なくはないから、別人かな?とも思った。

そしたら、同期のヤツが緊張した面持ちで、

「あ、あの~ぼく…ニ○カワさんと昨夜カニスキ宴会で一緒だったので、違うと思います…」と、余計なことをみんなの前で言ってしまった。

先輩達は、いっせいにこっちを向いた。

「お前ら、朝からなにねぼけてんだよ!きてねえよ!先生含めてここにいるのは昨日のメンツだよ。

ニシヤマの間違いだろ?なあ、ニシヤマ!」

ニシヤマさんって先輩が、

「いや!おれ君達と昨日話してないよね?俺じゃないよ…」

と、ビックリしたような顔して言った。

同期は、

「あのぅ…ア、アフロヘアの方です…昭和55年卒っておっしゃってました。

と、今度はニ○カワさんの特徴をたどたどしく言った。

先輩達は、押し黙ってしまった。

そのうち、オホホホホッと、でかい笑い声が聞こえた。

まっちゃんだった。

顧問をとっくの昔に引退しているこの八十手前の翁は、

昔からこんな感じだった。

おれは現役のとき、このまっちゃんがきらいだったが、

今ではいいじっちゃんだ。

「ニ○カワだ!ニ○カワ ス○オ!」

「お前ら、大先輩のことノ、ちゃんと憶えとけノ!アイツノ死んだよ!もう20年くらいまえになるかのぉ…?」

俺はたまらなくなって、

「たしかに、昨日ニ○カワさんと僕たち話しました。

現役時代の○○山スキーのこととか、先生の話も、大木に一度だけぶつかったことがあって、痛かったと…」

思わず、まっちゃんに向かって、でっかい声で言ってしまった。

まっちゃんは、またオホホホホッと笑って、

「アイツこの会がすきでノ。

去年もだれかOBの前に現れてノ…

アイツ…カニ食えんデノ。

生前も鍋の世話役ばっかしやっとった。

ワイワイやるのがアイツすきデノ。

嬉しかったんや。

きっと…」

先輩達も俺達も呆然とまっちゃんを見つめていた…

「って、話です…」

俺は自信なげに顔を上げた。

平さんが体を抱きかかえるように、

「さむ~」っと言って立ち上がったのをかわきりに、

あとの人たちも苦笑い浮かべながら、現場に戻っていった。

「チッ!」と舌打ちして戻っていく人もいた。

俺は、

『だから全然いい話じゃねぇつってんだろ!バーカ!』と思いながら、

話したことに後悔していた。

ムコ殿は、俺の話をじーっと聞いていたが、

「お前もいろいろありそうだな!まぁ…そうやってみんなと打ち解けてくんだよ!」

と、俺に言って出て行った。

ムコ殿はおれがみんなに馴染んでないことを見抜いている。

あぁ…もっと大人にならなきゃ。

【終】

怖い話投稿:ホラーテラー 工務員さん  

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