中編3
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カ・ガ・ミ

思えば、それは二週間ほど前から既に始まっていたのだと思う。

先々週から仕事が忙しく、自宅に着いたころには意識が朦朧としているような状態だった。

晩御飯を食べて、入浴して寝る―――習慣としての体の動きだけになっていた。

いつものように入浴し、いつものようにシャンプーしていた。

何を考えるでもなくシャンプーしていると、背中に視線を感じる。

私は一人暮らしで、風呂は窓のないユニットバス…。

視線を送る人などいるわけもない。

視線は真後ろから。

肩甲骨あたりに感じる。

驚いたことに私自身が見ている主体であるかのように、自分の背中を視覚的に捉えているような感覚もあった。

実際の私はと言えば、椅子に座り前屈みの姿勢。

自分で自分の背中を見てる?

しかも見られているという感覚もある?

物理的に有り得ない状況に気味が悪くなり、手早くシャンプーを済ませてバスルームを出た。

その次の日も同じようなことがあった。

そしてまたその次の日も…。

決まって目を閉じてシャンプーしている時だった。

違っているのは、見ている距離が徐々に離れているということだった。

始めは手の届きそうな距離で背中を見ていたのが、ついにバスルームの天井あたりから斜め下に自分を見下ろしいるような感じになっていた。

さすがに、どうにかしなければならないような気がしてきた。

とりあえず目を開けてシャンプーすることにした。

泡で洗っている間は目を開けていられた。

そのせいか何も感じなかった。

しかし、シャワーで洗い流す時はさすがに目を閉じなければならず…。

何も感じないことを祈りつつ、目を閉じてすすぎ始めた。

自分を見ている、という感覚はなかった。

少しホッとした。

が…視線は感じた。

今度は正面から。

少し屈み込んでシャワーを浴びている私の正面にあるのは、カガミ…だ。

視線はカガミの方から。

すすぎ終わり、姿勢を直しつつ目を開けた。

目の前のカガミには、私の顔が映っているはずだった。

『?…!!』

映っていたのは、赤い目、銀色の瞳、歌舞伎の隈どりしたような顔だった。

ニヤニヤ笑っていた…

ほんの数秒、ソレと見合う形になった。

『△◎◆#っ!!』

言葉にならない叫びを上げ(たと思う)、バスルームから転がり出た。

恥ずかしい話だが、狭いワンルームの中、バスルームから一番遠いと思われるところで素っ裸のままうずくまって震えていた。

ソレが出て来ないかバスルームが気になりチラ見しながら…。

しばらくたったが、ソレが出てくる気配はなく、気持ちもだいぶ落ち着いてきた。

服を着て、どうしたらいいのか考えた。

やっぱり、神社でお祓いするしかない。

翌日、会社を休んで神社へ行った。

初詣以外来たことがない私はどうしていいか分からず、社務所の前をウロウロしていた。

そこへ水色っぽい袴を履いた宮司さんらしき人が現れたので、思い切って話しかけてみた。

60歳ぐらいの宮司さんはニコニコしながら、私の話を聞いてくれた。

『よくお参りくださいました。それではお祓いをいたしましょう。』

宮司さんは着替えまでしてお祓いしてくれた。

その後で話してくれたことによると―

今回の元々のきっかけは私の魂が肉体から離れそうになっていた=離魂状態(幽体離脱?)になりかけていた所に通りすがりのソレが入り込んだとのことだった。

『仕事がお忙しかったからでしょうなぁ。

文字通り、心を亡くすほどだったのでしょう。

休養をとるのも大切ですよ。

それと、ちゃんと“意識”を持って過ごされることです。

ご自分の体を動かしているのはご自分なのですよ。

そうそう、 カガミですが…。

神社でも神棚に置いておりますが、なぜカガミというか、ご存知ですか?

それは神の間に自分を映す、つまり《カ・我・ミ》という意味だという説があるのですよ。』

その後、バスルームでの不思議な現象はなくなった。

しかし、カガミを見る瞬間は今だに緊張する。

ちゃんと自分としての顔をしているだろうかと。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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