短編2
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失職の理由

先日、久しぶりに会った友人と飲んだ。

努力に努力を重ねて念願の鉄道の運転手になった男だ。

俺にとって、そいつは俺の友人の中でも数少ない「成功者」の一人だった。

ところが、いざ一緒に飲んでみると、どうにも元気がない。

話をきいたら、なんと今仕事をやめてぶらぶらしているとのこと。

理由を聞いたらそいつは焼酎のグラスを見つめながら

「いや・・・仕事がきつくってさ」

とつぶやくように答えた。

意外だった。

ていうか納得がいかない。

俺はそいつがどれだけ体がつらくても夢をかなえるために努力を惜しまなかったかということを知っている。

そいつのいう「キハ」がどうこうとか、「Nなんたら系」がどうだとかいうウンチクは、俺には全く意味がわからなかったが、そいつがどれほど鉄道を情熱をもって愛しているかということはいやというほど伝わってきたものだ。

それがきついからといって辞めてしまう・・・。どんな仕事のきつさがあるというんだ?

ささいなミスも許されないのか?

社内の派閥争いに巻き込まれた?

変質的なクレーマーに悩まされた?

役員がらみのコネで入った生意気すぎる後輩の面倒を押しつけられた?

同期との競争がヤバすぎた?

先輩からの拷問といっていい体育会系な指導についていけなくなった?

それとも普通に残業が厳しすぎる?

そのくせ残業代を申請すると上司からさんざんに叩かれる?

転勤関係の絡みで家族計画の設計ができない?

角度をかえて女関係?

……

思いつく限りの理由をあげてみたが、そいつは力のない笑みを浮かべて首を振るばかりだった。

結局、それほど盛り上がるわけでもなかったその飲み会は1次で締めになった。

帰り際、そいつはうつむきがちに飲み屋の看板にむけて軽く蹴ように足を交互に振りながら、

「今年だけでもう3人だ」

といった。

「ん?」

意味がわからず聞き返す俺に、

「もう嫌なんだ」

とそいつは続ける。

「なにが?」

何を言いたいのかわからないそいつの言葉に、少しイラっとして聞き返す俺に、

「もう……人を轢きたくなんかないんだ」

思いつめた表情でそいつは答えた。

その一言に、その言葉の重さに、俺は久々に腹からくるゾッとする感覚に襲われた。

怖い話投稿:ホラーテラー 修行者さん  

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