短編2
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早く言ってくれ

久々に高校時代の友人Aにあった。

乾杯の後、それぞれの近況報告、思い出話と盛り上がり楽しい時間を過ごしていた。

話は三年前に亡くなったAのお父さんの事に。

Aのお父さんは潜水夫をしていて、海難事故の時はとても尽力されていた。

仕事柄か、ガッチリした体つきで精悍な顔立ちをしていて、俺達同級生の間ではカッコイイ父ちゃんだと評判だった。

そんな話にAは照れ臭そうに笑いながら

『俺も、そう思っていた。父さんの仕事に対する姿勢が好きだったんだ…』

酒を飲みながらトツトツと話し始めた。

Aのお父さんは海難事故での遺体の捜索、引き上げもされていたらしい。

人間の体は自然に浮いてきそうなものだが、そうではないこともある。

海面から十数メートルのところで漂っている遺体を見つけることもある。

着衣のままふやけた状態の遺体は痛ましいものだった。

『早く引き上げやりたい。』

その気持ちだけでいっぱいだった。

すぐ作業に取り掛かった。

ところがなかなか引き上げられない。まるで遺体が引き上げられることを拒絶するように、上がらないのである。

Aのお父さんは遺体の正面から近付き、遺体に向かって話しかけた。

『もう仏さんになったんだから、苦しくないですよ。

どうぞ楽にしてください。

上までお供します。』

すると不思議な事にすうっと遺体が上がり始めるのだ。

『父さん、亡くなった方にも一人一人礼を尽くしながら仕事をしていたんだと思うんだよな。』

Aの話に俺は深く頷いた。

『タコ酢、お待たせしました。』

俺が頼んでいたツマミが来た。

するとAが、

『そういえば、父さん、タコは食べなかったな…』

『なんでだよ?』

『ん…ん。

ある遺体引き上げたとき、タコがくっついていてさ…

その遺体の顔がさ、両眼球が吸い取られたようにポッカリ二つ穴が開いてた顔だったからだってさ。』

俺は箸でつまんだタコ酢を口へ運べなくなった…

怖い話投稿:ホラーテラー 池尻大橋さん  

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