中編3
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見てはいけないもの

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怖いもの見たさ・・・という言葉がある。

見れば怖いとわかっているのに、ついつい覘きたくなるもの。お化け屋敷、占い、ホラー映画etc・・・いつの世も盛況な商売だ。

ところで、本当に見てはいけない というモノもある。世代にかかわらず、代々言い伝えられてきたもの。決して行ってはならない禁忌。

それらは案外、日常のすぐ隣りにある。

ある場所に小さな神社があって、そこには、住民が代々大切にしてきた御神体が祭られていた。大切にしてきたとは言っても、ごく普通のひなびた神社だ。参拝する者もほとんどいない。せいぜい秋祭りの時期に村人が集まって、素朴な神楽を舞う程度。

だがその地域の人たちにとって、小さな神社は大切な存在であり、世代が変わっても奉り続けなければならないものだった。

神社には伝説があった。地域の人たちはみなそれを知っていた。大人も子供も、折りあるごとにそれを語り、伝説は受け継がれてきた。

伝説は神社の御神体に関するものだ。その神社の御神体は水晶のドクロだという。昔、平家の落ち武者たちがその地へ逃げ延びてきた時、住民たちは源氏の制裁を恐れて落ち武者を村から追い出した。

落ち武者の一団に身ごもった女がいた。武者たちは村から出て行ったが、臨月に入った女はそれ以上歩くことが出来なかった。

季節は真冬。

どの家にも入れてもらえず、女は吹雪の中で赤子を産み、子どもと一緒に凍え死んだ。

その女の怨霊のせいか、以後、村では悪運が続き、永い間村人を苦しませた。

女の怨霊を鎮まらせたのは旅の高僧だという。ふらりとやってきた高僧は、懐から水晶でできた小さなドクロを出すと、それに女と赤子の無念を封じ、神社を建てて奉るように告げた。

以来、悪運はピタリと治まり、村には平和が訪れた・・・・と、どこにでもありそうな伝説だが、この伝説にはオマケがある。

御神体である水晶のドクロを決して見てはならないというオマケが。

永年、神社を奉り続けてきた住民の誰も、神社の御神体を見た者はいない。神社を改築する時も、御神体が入っているとされる木箱には決して手を触れなかった、というのだから徹底している。

ところがある時、その神社の神主を勤めてきた人が亡くなって、新しい神主がやって来た。その神主はよそ者で、神社の伝説など信じていなかった。

もうすぐ秋祭りという晩。

祭りの世話役となる地域の人たちと、その神主が集まって飲んでいる時、御神体の話になった。酔っていたせいだろう、神主は御神体の伝説についてあざ笑った。

そんなものはどこにでもある話しだ。御神体と言ったって、何が入っているかわかったもんじゃない。本当に水晶のドクロが入っているんなら、確かめたほうがいい。神社にとってはいい財産だ。

住民たちは嫌な予感がしたが、みな酔っていたせいもあり、話はそこで終わってしまった。何事もなく秋祭りの準備は進み、祭りは無事に行われた。

慰労会をかねて飲もうという時。

神主を探したが、姿が見当たらない。狭い境内のどこにもいない。まさかと思った住人が神社の奥へ行ってみると、紫色の袴のすそが見えた。そこは御神体が祭られている本殿の再奥の小部屋。

神主は、御神体が入っているとされるボロボロの木箱に右手を乗せたまま、息絶えていた。すぐに病院に運ばれたが、すでに死亡。死因は心臓麻痺だったらしい。

以来、御神体の伝説にはこう付け加えられた。

水晶のドクロを決して見てはならない。見た者は必ず死んでしまうから・・・と。

本当にあった、本当の話。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名Argentinoさん  

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