温厚に振る舞う私でも、どうでもよくなることだってあるんだよ。
何故、私が攻められねばならないのか?
わからない。
こんなにも皆のために我が身を犠牲にして働いているのに。
こんなにも苦しい思いをしてきたのに。
私は黒いジュラルミンケースを見つめていた。
ゆっくりと蓋を開けてみると、中には赤いボタンが1つだけあった。
これを押せば、全てが終わるのか……。
私の指先が無意識の内にそのボタンの上に乗っていた。
妻よ、今まで私と付き合ってくれて……ありがとう。
息子よ、お前の成長していく姿を見届けてやれなくて……すまない。
友よ、君がいてくれたから今の私があったのだ……あの世でまた会おう。
覚悟を決めた私はボタンを押そうとした。しかし、押せなかった。
押す勇気が無かったわけではない。決心は固かったはずだ。
理由は分かっている。私は自分だけの力で生きてきた。そう思っていた。
だが、こうして人生を振り返ってみると、数多くの方々に支えられてきたという事を思い出したのだ。
私は何を悩んでいたのだ?答えは始めから決まっていたではないか。
例え挫(くじ)けても、そこから這い上がって頑張ればいい。それがダメでも別のやり方を模索して色々試してみればいい。
それが私の生き方だったではないか。それが人生を楽しむという事ではないか。
悟りを開いた私は嬉しくなった。モヤモヤした気持ちは何処にもなかった。そう、一言で言うなら油断していたのだ。
「へっくしっ!」 ポチッ
「あ……。」
ゴゴ…ゴゴゴゴゴゴ……
20XX年 世界は核の炎に包まれた
怖い話投稿:ホラーテラー ゆうなさん
作者怖話