中編4
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汚部屋にご注意

このサイトで似たような話を見たので、ひょっとしたら同じモノを見たのかもしれない。

付き合っている彼は片付けが苦手ならしく、部屋は常に散らかっている。

ごくたまに部屋が比較的すっきりしていることがあるが、ちゃんと片付けているわけではない。

散らかった物を、通称「物置部屋」に移動しているだけなのだ。

物置部屋から荷物は移動する先はないため、そこはありとあらゆるものが混在したカオスな空間になっていた。

彼の自宅はダイニングキッチンと寝室の二部屋あり、居間に布団を敷いているため生活に不自由はないのだが…

「部屋を散らかしておくと運が悪くなる」という私の母親の言葉を思い出し、部屋に行くたびに「片付けたら?」と言ってはいるが、生返事しか返ってこない。

一緒に住んでいるわけではないし、彼氏とはいえ人の部屋を勝手に片付けるのは良くないのでそのままにしていた。

そんなある日の夜。

いつものように、居間に敷いたお煎餅布団で一緒に寝ていると、夜中に尿意を覚えて目が覚めた。

居間を出てトイレに向かう。

寝ぼけていた私は、便器に座ったままほんの少しの間、居眠りしてしまった。

目が覚めてトイレを出ると、件の物置部屋のドアがほんの少し開いている。

その隙間からかすかな物音がした。

寝ぼけた頭のまま近寄り、ドアを大きく開ける。

廊下の明かりで浮かび上がった部屋の中は真っ暗で、いつも通り乱雑に散らかったいた。

その中央で、しゃがみこんで何やらしている、見覚えのある後ろ姿。

「こんな時間に探し物?」

あくびをかみ殺しながら彼に尋ねるが、返事をしない。

こんな真っ暗中で探し物なんて…。

電気をつけてやろうと、壁のスイッチを手探りで見つけたその時。

居間と廊下をつなぐドアから、「んごっ」というイビキの音が聞こえた。

その音で一気に頭が覚醒する。

今目の前にいるのは…誰だ?

居間から聞こえてきたイビキも彼の声だし、今目の前にある背中も彼のものだ。

ただその二つとも不確定要素が強い。

イビキは真似ることもできるし、後ろ姿も他人の空似とも考えられる。

居間と物置部屋。

二つの空間に存在する二人の人間のどちらかが彼で、どちらかが得体のしれない何かなのだ。

目の前の「それ」は、私に背中を向けたまま、ひたすらに片付けをしている。

そして、ふと手を止める。

振り返る…!そう思った瞬間、私は勢いよくドアを閉めて居間に戻った。

布団の上で大の字に寝ている彼を叩き起こし、泣きながら物置部屋の話をした。

彼は最初寝ぼけていたが、私の話で泥棒と判断したらしい。

武器になりそうなギターを担いで物置部屋に向かった。

居間と物置部屋は、5メートルほどの廊下で繋がっている。

彼が物置部屋のドアを開けると、部屋の中には誰もいなかった。

人がいた気配すらなかった。

彼が今朝方何かを取り出した引っ越し用の段ボールが、部屋の中央でそのまま蓋の開いた状態で置かれていた。

「寝ぼけてたんじゃないの?」

と呑気に言われると腹が立ち、

「あんたが部屋を汚くしたせいで変なものが集まったんだ!」

と言い返したが、まったく取り合って貰えなかった。

それから暫くの間、なんとなく彼の家に行きづらくなった。

一か月ほど経った頃、家に来ないかと誘われた。

口ごもっている私の気持を察したのか、彼は

「たぶんもう大丈夫」と言った。

彼の家に行くと、物置部屋はすっかりきれいになっていた。

散らかっていた時は気がつかなかったが、結構広い部屋だった。

積み重なっていた段ボールで塞がっていた窓から、明るい光が差し込んでいる。

「よく片付けたね、やればできるじゃん。」

「それがさ…」

せっかく綺麗になったのに、彼の表情は固い。

「どうしたの?」

「俺も…見たんだ。変なのを。」

一か月前の、「アレ」の背中が脳裏に蘇る。

せっかく、自分の中でも「あれは夢だった」と言い聞かせられるようになったのに…。

「変なのって、アンタに似た誰かを?」

「いや…」

彼は私を指差した。

「お前を。」

十日ほど前のこと。

夜、彼がトイレに立つと物置部屋の中から物音がした。

中を覗くと、「私」が背中を向けて掃除していた。

私と同じように寝ぼけていた彼は

「自分で片付けるから~勝手にやるなよ~」と言った。

すると「私」は背中を向けたまま

「こんなに散らかすなんて!お前は人間のクズだ!いつもいつもそうだ!

優柔不断のハッキリしないクソ野郎だ!」

と罵った。

今日は機嫌が悪いな、と思って部屋に入ろうとした所で、ようやく気がついたらしい。

私であるはずがない。

お互いプライバシーは大事にしていたので、アポなしに家に行くこともなかったし、もちろん合鍵も持っていない。

私が入って来れるはずがないのだ。

しかし、着ているパジャマも声も確実に私のものだ。

分かりにくいので標準語で書き記したが、私は感情が昂ると必ず訛りが出る。

彼が真似した「私」の口調は、明らかに私の郷里の訛りだった。

彼は居間に戻ると布団を被り、朝まで震えていたという。

そしてお約束のように、朝物置部屋に行くと、片付いているどころか人が入りこんだ形跡もなかった。

「だから片付けたんだ。」

彼は俯き加減で呟いた。

そら見たことか!と思ったが、得体のしれない「私」に似た何かがいたと思うと、背筋が寒くなった。

それにしても、私はいくらなんでも彼を

「クソ野郎」だのと言ったりはしない。

その言葉が出た時点で、私ではないと気がついて欲しかった。

怖い話投稿:ホラーテラー ローレライさん  

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