中編3
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直子

あぁ、そんな、直子!直子!早く、直子を集めないと!直子…

ふと見た私の手は、真っ赤に染まっておりました。…

太平洋戦争での原爆投下。父はすで亡くなっており私の母は家の下敷きに、兄弟は出兵から戻ることなく残されたのは私と、妹の直子でした。

戦後、まだ幼い私達が生きていくのに世の中はあまりにも過酷でした。ご飯が何日も食べれないなどザラにあり、私達いつもやせ細りボロボロの服を着ていました。たまのサツマイモは畑から必死に盗んできたものです。生で食べるには固く、それでも生きるために、直子と必死にかぶりつきました。

お姉ちゃん、体が痒いよ。夜、真っ暗な部屋の中、直子が体を掻きながら呟きます。みると直子の体の傷口から何匹もの蛆が沸いていました。直子、我慢して、今とってあげるからね。私は目を凝らしながら蛆をひとつひとつ取っては捨てていきます。直子の体は骸骨のようにやせ細っています。よし、これで大丈夫!また沸いてきたら取ってあげるからね!私は涙を押し殺し、そう言いました。

直子が遊びに出かけた、その日。私は直子を一人で出かけさせた自分を今でも許すことが出来ません。直子がなかなか帰ってこないので探しに出かけたところ、家から幾分離れた線路に人だかりが出来ていました。やじ馬の人達が話してます。可哀相に…。まだ幼いのにねぇ…。家族はいないのかしら?

嫌な予感がしました。もし、すいません、誰か轢かれたのでしょうか?小さい女の子がね、鉄道に轢かれたのよ。私は人を押しのけ線路にかけていました。見えたのは、直子の顔と、バラバラになった、ソレでした…。

あぁ、そんな、直子!直子!早く、直子を集めないと!直子…

私は必死に直子をかき集めますが、直子は遠くまで飛び散っていたり、グチャグチャになっており、中々集まりません。そんな時

ふと見た私の手は真っ赤に染まっておりました。

私一人しかいない暗い家で私は考えました。直子はどうして鉄道に轢かれてしまったのか?日頃、事故には気をつけるように強く言いきかせていました。遊びに夢中になっていたのか?無理に渡ろうとしたのか?しかし、そんなことをするような子ではありません。そして、私は気づいてしまいました。直子は、自ら死を選んだと…

未来の見えない、辛いだけの毎日に疲れてしまって。私の負担になっていることを感じ。直子は死ぬことに幸せを見出だしたのです。

私は気づいたら、嗚咽を漏らしながらボロボロ泣いていました。そして決意しました。私は直子の分まで生きていかなければならないと。

…それから数年後、出兵で生き残った兄が帰ってきて、私は兄と暮らし生きてきました。

その間、片時も直子のことを忘れたことはありません。兄は数年前に旅立ち、私にももうすぐ終わりの時間が近づいてきているのを感じます。

もうすぐ直子に会える。会ったら何をしようか?一緒に遊んであげよう。いや、その前にお腹いっぱい美味しいものを食べさせてあげなきゃね。

そう考える今この時、目を閉じると、直子の笑顔が浮かんでくるのです。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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