中編3
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遭遇

 これは私が以前勤めていた会社での出来事です。

 当時は入社して半年、O府の支店からS県の支店に異動になりました。支店は県庁所在地のS市にありますが、私は小学生〜高校生までS県東部のF市に住んでいたため、これからの不安より昔遊んだことのある街に戻った懐かしさが込み上げていたのを覚えています。

 新幹線で約2時間、最寄り駅に着きS支店のI支店長に電話をしました。しかしどうやら支店長は出先だったようで、場所の関係かかなり電波が悪かったです。駅に着いたから今から事務所に向かう旨の話を手短にし電話を切りました。

 東京や大阪の大都会と比べたら地方ですが、一応県庁所在地のど真ん中、ビルやお店が建ち並ぶ中、キャリーバックとアタッシュケース、ショルダーバックという決してスマートは言いがたい重装備をヒィヒィ言いながら運ぶ姿は、周りからは『田舎からやってきた娘』に見えたでしょう。

 10分くらい歩くと事務所の入っているビルが見えました。すると直接の上司のO課長が『田舎からやってきた娘』風の私に笑いながら出迎えてくれました。荷物重いならタクシー使えよなどという話をしながらエレベーターで5階の事務所へ行きました。

 そこには先輩のYさんとNさんが事務所を掃除をしていました。ちなみにS支店は支店長と私を入れて5人の小さめの支店です。

 先輩2人に挨拶をすませ、荷物の整頓をしてるとO課長が突然「お前、幽霊とかいけるくち?」と聞いてきました。あまりに突拍子もない質問に「えっ?はい?」と素っ頓狂な返事をしてしまいましたがO課長曰く、S支店の人間は営業行く先々でそういう体験が多いんだそうです。

 S県は有名な心霊スポットがいくつかあるので霊感ある人は見えるかもしれませんが、私自身霊は見たことないのでかなり他人事でした。

 Nさんは掃除に疲れたのか時折肩を回しながら会話に参加していました。

 O課長は私があまり関心を示さなかったのがつまらないようで、「I支店長が帰ってきたらわかるから。」と話を切り上げ、徐にPCで何か打ち込みを始めました。

 1時間後、支店長が戻って来ました。O課長は「遅かったですね。やっぱA方面は遠い上に大変ですよね。」「いや、何か客先出てちょっとしたら警察に尋問受けちゃってさ〜…」と支店長と話していました。AとはI半島にあるI市の山中にある地名で、峠やらトンネルやらがいわくつきで有名です。

 (あーだから支店長に電話した時電波悪かったのかー。)とその時は納得しました。

 「あっ。T(私)。明日早速だけど、Nが再営業でAに行くから、勉強がてらついてって。」と

支店長に言われました。私は(そんな遠くにもお客様結構いるんだー)くらいにしか思いませんでしたが、Nさんはあまり元気がありません。ほぼ一日ずっと掃除をしていて疲れたという感じで肩をポンポン叩いていました。

 その夜、近くの居酒屋で私の歓迎会をやってくれることになり、みんなで盛り上がってる時、突然私は支店長にちょっとした疑問を感じました。

 (Aにいたなら電波が悪くて仕方ないけど、私が電話してから1時間くらいで帰ってきたなら支店長はもうS市内に入ってたはず。あそこまで電波悪いのはおかしい…。※ちなみにAから事務所までは車で4時間近くかかります。この日は日曜日だったので車で行ってたそうです。)

 それにO課長が言ってた「支店長が帰ってきたらわかる。」という言葉も気になってきたので、盛り上がりに便乗して聞いてみました。

また続きます。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿子さん  

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