中編3
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出えぇ〜たあぁ〜!

・・・あれは12月の寒い朝だった。

私は山に近い郊外に住んでおり毎朝6時の散歩を習慣としていた。

その日もまだ薄暗く流石に風も冷たく私はいつもの田舎道をとぼとぼと歩いていた。

まさに静寂である。日々の生業を離れこの静寂に我が身を置く穏やかな恍惚感。まさに至福の一時である。私が踏む朝霜の冷たく湿った音だけが遠慮がちに響いていた。

ふと先を眺めると神社が見えた。いつも通る神社だが今日は何やら様子が違う。明かりが見えるしどうやら人の気配もしている。 大晦日も近いし準備でもしてるんだろう。ご苦労様なことだ。私は独り言を呟きながら神社の方に向かって道を歩いていった。

その時である。

それまでの静寂を打ち破り喧騒のかたまりが恐るべき勢いで神社から飛び出てきた。

30人ほどいや50人はいようか老若男女がマラソンのスタート時のようにどたどたと走って来る。しかも誰もが恐怖に顔を引き攣らせ口々に叫びつつさながら百鬼夜行といった趣である。

何事だ?私は咄嗟に脇に寄りこの一団を待ち受けた。

「出ぇ〜たあぁ〜!」

一団が近くまで来ると,はっきりと何を叫んでいるかが認識できた。

な,何が出たのだ?私は些か怯えながら,呆然と一団を眺めていた。

「出えぇ〜たあぁ〜!」

集団は私など,見向きもせず,猛烈な勢いで通り過ぎようとしている。

集団のトップは,世にも汚らしい爺であった。爺は恐怖で目が飛び出るほど見開き,入れ歯は半分口から飛び出し,残り少ない毛髪は,新たに成長が開始したかと思われる程,元気に逆立っていた。

二番手は,小肥りの中年女である。顔を涙と鼻水でくしゃくしゃにし,何故か手にスコップを握りしめ,叫びながら走る姿は,ほとんど化け物と言ってよく,その後ろの貞子のような,髪の長い若い女に至っては,化け物そのものと言えた。

「出えぇたあぁ〜!」

その後ろから,小学生と思われる可愛い黄色い声が聞こえてくる。何故か楽しそうなのが不気味だった。

突風のように,百鬼夜行が通り過ぎた。

いったい何が出たのだ?ふと神社に目を向けた私は,分けの解らぬ恐怖を覚えた。一人取り残され,私は今ここにいる。

そうだ!何が出ようが,この際,問題ではない!

とにかく出てしまった以上,逃げねばならぬ。

私は突如,圧倒的な恐怖に襲われ,脳を焼かれるのを感じた。逃げねばならぬ!!

私の毛髪は突如逆立ち,恐怖に目を見開き,歯を剥き出して,私は彼等を追いかけていた。

「出えぇ〜たあぁ〜!」

私はひたすら走る。何故か,あの連中が愛おしい。

途中で,先程の爺が倒れていた。それでも爺は,這いつくばりながら,必死で逃げている。私は構わず,踏み付けて走った。恐怖はますます膨れ上がる。

「出えぇ〜たあぁ〜!」

恐怖は増殖し,暴走する。

「出えぇ〜たあぁ〜!」

私はどこまで,走るのだろうか?

怖い話投稿:ホラーテラー 洗島の八さん  

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