中編3
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帰ってきたパトス(前)

私はもう…止まらない。

あれから半年が経って、いまなお続く地球外生命体の侵攻。

半年前のヨハネスブルクの大戦で私は傷つき、一度は死を覚悟した。

気が付くと、私は日本という島国に流れ着いていた。

島国の人々は私を介抱し、温かい味噌汁と白米、脂の乗った塩鮭、新鮮な海苔と昔ながらのおふくろ味のきんぴらゴボウ、裏の物置で漬け込んだたくあんをご馳走してくれた。

その食事を食べていると私の目から雫が零れ落ちた。

それが何か無知な私には理解出来なかった。

病かとさえ疑い、取り乱す私に島民の娘は優しく雫を拭い、「それは涙と言うものです」と言った。

涙。

文献で確かに昔読んだ事があった。

人の感情が昂った時に起こる生理現象。

私は驚きからか、私が涙等流すわけがないと娘を罵倒した。

娘は困惑した。

私は赤子同然だった。

だからその様子にとても満足した。

私をもっと畏れろと、私は人を超えたと告げた。

だが娘の怯えた顔は微笑みに変わった。

「はいはい、分かりましたよ」と。

まるで子供をあやすように家の奥に入っていった。

他の島民も同じだった。

私がいくら脅かしても笑って流すだけだった。

ある日、ぶらぶらしているだけでは迷惑だと、娘に畑仕事に連れていかれた。

私は困惑し、反対した。

だが娘の強引さに、結局歯向かうことは出来なかった。

困った顔をするのは私ばかりだった。

そんな日々が続いた。

いつのまにか、私は島民と娘といる事が喜びに変わっていた。

私は生まれて初めて、人に腹を立て、涙を流した。

そして、良く笑う様になった。

私はあろう事か、この時間が永遠でもいいと思ってしまっていた。

しかし、傷は待ってくれずあっという間に完治してしまった。

もうここに居るわけにはいかなくなった。

私は島民達にヨハネスブルクに戻る事を伝えた。

島民達は渋々と納得してくれた。

だが、娘の反応は違かった。

私と娘が出会った時とは逆に、今度は娘が泣いていた。

馬鹿と、阿呆と罵られたのも私の方だった。

最後には出ていけと言われて、仕方なく私は村を出た。

涙ってものは、今も何故出るかは分からなかった。

私は何故かため息をついた。

村を出て暫く歩くと、空が赤くなる。

村が燃えている。

私はこれまでの鍛錬で培った全て筋力を駆使し、電光石火で村に駆け戻った。

村は奴らに襲われ、真っ赤な火に包まれていた。

人々が逃げ惑う中、私は娘を探した。

何度も何度も娘の名を呼んだ。

しかし、娘からの返事はなかった。

娘の生存を私が絶望しその場でへたり込んだ時だった。

私の名を呼ぶ、小さな娘の声。

私は声の方に駆け寄る。

娘は家の裏で倒れていた。

私は慌てて娘を抱き抱える。

私がすまんと何度も言うと、娘も大丈夫よと何度も返してくれた。

だが、医術に詳しくない、わたしから観ても娘の腹部からの出血量は致命的だとわかった。

娘の呼吸は次第に弱くなって行った。

娘は事切れる間際、私に向けて初めてあった時と同じ微笑みすると、ありがとうといって目を閉じた。

また、雫が零れ娘の顔に落ちる。

涙の意味がその時に漸くわかった気がした。

私は娘をゆっくりと地面に降ろし、立ち上がる。

私こそ、ありがとう

そう言って私はまた、ヨハネスブルクに向けて走り始める。

涙はまだとまらない。

いや止めたくないのだ。

体が軽い。

いまなら、もっと速く走れる気がする。

綺麗なストライド。

もっと速く、もっと。

体が軽い。

地面を強く蹴る。

酸素を

二酸化炭素を

今なら蹴れる。

全ての元素を。

全ての原理を。

行こう、

宇宙の起源まで。

怖い話投稿:ホラーテラー サイコ男さん  

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