中編4
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父強し

うちの家族は霊感一家だ。

一家と言っても父だけはまったくのノーマルで、父を除いた母、6つ上の兄、3つ上の姉、

そして末娘の私と、有り体に言えば普通に「見える」。

あまりにも普通に「見え」すぎて、私なんかは時々区別がつかなくなるときさえある。

母は物心ついた頃からめちゃめちゃ見えてたらしく、時代も時代だったから

そう簡単にはカミングアウトできず、結構悩んでいたらしい。

「多分あたしは結婚できへんな」と普通に思ってたらしいが、同じ会社で働いてた父から猛烈なアプローチを受け

結果的に結婚へと至りめでたくうちらがこの世に生をうけた。

父は軽くゴリラ面だが性格はとても柔和で、娘から見ても家族をこよなく愛する良い父だと思う。

母はルックスは別にして、霊がうようよいる建物に平気で入って行ったり普通に霊をすり抜けていく父を頼もしく思い、

「この人と結婚したら、子供は普通かもしれへん」と思い、結婚を決めたらしい。

・・・まぁ結果は大ハズレで、生まれた子供三人見事に母の霊力を継いでおり、中でも姉の力は群を抜いている。

それはおいおい話していくが、今回は一人霊力がない父について話をしたい。

父は家族をとても大事にしているので、自分だけ見えないことになぜか非常にコンプレックスを抱いている。

「俺も見えたらええのに・・・」

と折につけ口にしているのだが、そういうときに限って父の横に血まみれの女の人が立っていたりし、

うちらは言葉少なに「いや、見えへんほうがええんちゃうん?」と小声で言うのだが、

「ほうか?でも一人だけ仲間はずれみたいやん」と言い、普通にその血まみれをすり抜けてトイレに行ったりする。

父強し。

その父が、一回だけ霊を見事に追い払ったことがあった。

私が大学2年生のとき。

正確な時期は覚えていないが、冬だったことは記憶にある。

「あーしんど」と言いながら帰宅した父の背中に全裸の女性がしがみついており、

「この寒い中・・・」と思った覚えがあるからだ。

父の肩に顔をうずめていたため顔全体は見ることができなかったのだが

長い髪が父の胸まで巻きつくように垂れており、体は痩せ細って肋骨の一本一本浮き立っていた。

何よりその青白さが気味悪かった。

母は一目見て、「あー、生きとんな。」とつぶやいた。

生霊は死んでる奴より何倍もタチが悪い。

しかもうちらは「見える」だけであって、それなりの防御はできるものの除霊なんかはもちろんできない。

父は見るからに疲れてて、「あーなんかわからへんけどほんま今日きっついわー」

とぼやきながら、それでも夕飯の焼き魚と肉じゃがをがつがつ食べ出した。

うちらはうちらで父にしっかりしがみついているヌーディーから目を離せず、

バカみたいに口をあんぐり開けていたと思う。

「・・・お父さん、浮気とかしてへんよね?」

沈黙を破ったのは父より強しの母だった。

「はぁ?」

父は相変わらずもぐもぐご飯を食べている。

「・・・いや、浮気とかしてるんちゃうかなと。」

母もゴリラが浮気してるとは思ってないから、必然質問も自信なさげ。

「してるわけないやん。なんでやのん?」

いや、あなたの後ろに全裸の女性がいるもんで。

とはもちろん誰も答えられず、とりあえ沈黙を守っていた。

生霊に対してはなすすべがない。

これはどうするべきかと父を除く全員が深い憂慮に包まれていた。

と、それまで後ろに隠れていた女性が徐々に前に乗り出してき、物凄い形相で母を睨み始めた。

普通だったら結構綺麗な女性だと思われたのだが、

なんせ目がつりあがり顔は蒼白。大きく開けた唇からのぞく歯は全て鋭利なナイフのように尖っていた。

何よりその顔は憎悪であふれかえっていた。

「こわっ」

最初に声を出したのは兄。

一番その方面の力が強い姉が厳しい顔をしながら、

「噛まれるんちゃうかな・・・」

と言い終えるか終えないかの内に、本当にヌーディーが父の首もとにそれこそ「ガブリ!」と噛み付いた。

「ひぇーー!」

家族全員が悲鳴を上げた。

うちらは霊は見慣れているけど、こういう身内がまともに危害を食らう現象には滅多に遭遇しないもんで、

いつも冷静な姉ですら思わず小さな悲鳴を上げていた。

・・・そしてこの「家族全員」には父も含まれていた。

「ひえーーー!みっちゃん(母の名前)!この焼き魚半焼けやん!俺魚の生の内臓ダメなん知っとるやろ!あー、気色わるっ」

そして父は突然ヌーディーが噛み付いている首もと(ヌーディーの顔面)を片手でぴしゃりとひっぱたいた。

「まだこの季節に蚊おるの?」

うちらは声も出せずただ呆然としてた。

父は父で

「魚の罰で、今日はおかんはおとんと一緒にお風呂入らなあかんな」

と嬉しそうに子供三人に宣言しており、わざとらしいウィンクを母に送り続けていた。

その言葉の後、顔面をはたかれたヌーディーは悲しそうな顔をして消えていった。

父強し。

思うに・・・。

父は顔はゴリラだが、内面は至極温厚でしかも結構おもろいおっさんだ。

社内の女子社員だとか出入りの業者さんとかが父に勝手に恋心を抱き、

でも家族(特に母)一途の父がまったく振り向く気配もなく相手にすらしてもらえなくて

父への恋心が憎しみに変わっていったとしてもおかしくはない。

父には見えないのだから相手を特定することもできないし、する必要もないと思っている。

おそらく父の母への愛情を垣間見て諦めたんだろう。

お風呂場からは父だけでなく楽しそうに笑う母の声も聞こえてき

うちら兄妹三人は「勝手にせえや」とまんざらでもない声で悪態をついていた。

怖い話投稿:ホラーテラー 末娘さん  

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