短編2
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家族で山登りへ行った。

その日も方向音痴だけれどリーダーシップ取りたがりの父に家族4人が付いて行っていた。

1本道だったため迷うことはないだろうと母も油断していた。

いつしか山奥から霧がたちこみはじめ、景色が薄ぼんやり暗い印象に変化し、なんとも気味の悪い感じになっていった。

更に、道幅は狭く険しく

しばらくしても、それらしい道に行き着かず不安や疑いの気持ちが濃くなった。その時に決定的に引き帰せざるえなくなった。

というのは前方に突如として川が現れたからだ。

上、下、横と、どうにも抜けられる道らしきものは見当たらず、ようやく父も戻ろうと判断した。

「あの時、不思議だったよねぇ。急に霧も出てきて。気味悪かったよねぇ」

と後日、母と現像した写真を見ていた。

ちょうど道に迷いはじめしかしまだその過ちを確信していない時に撮った1枚の写真。

それに違和感を感じた。

もう一度よく見てみる。

母、姉 、私 、長姉と順に並び写っている写真。

辺りは霧のせいか陰っていて深緑の爽やかさはない

皆の表情はこの道で合ってるの?と不安があるからか口が横一文字に引き締められ、笑顔はない。

そして違和感の理由がわかった。

母、姉、私、長姉、そしてその横に、昔、私が生まれる前に飼っていたという犬(マルチーズ)が同じく並んでいたからだ

はじめは見間違いかと思ったがやはり目、鼻、耳 がありカメラをまっすぐ見つめ座っている犬がいる。

私は母を怖がらせないようにしながらも、

「ねえ、これ。ちーちゃんじゃない?」と言う。

「えっ。」と慌てて写真を手に取る母。

「〇〇(長姉)ちゃんの隣」ともう一度説明。

「えぇっ。」と驚愕し、ちーちゃんを見つめる母。

「ホントだ・・」

母は微妙な気持ちを抱いていたようだ。

なぜかと言うとちーちゃんは両親が新婚時代に我が家にやってきたのだが 姉が生まれた時とても嫉妬していた

それでも新米の母は性格的に上手く両方に愛情を注いでいたと思う。

しかしちーちゃんにとってはまたしても不運が起きた。

父の転勤である

転勤先の社宅はペット不可だった。両親は仕方なくちーちゃんを母犬のいる父の実家に戻した。

母はとても気にかけていたが・・

そしてさらにまた悲劇が起こった。ちーちゃんがいなくなってしまったのである。父の実家周辺は当時治安がよくなく、何度も泥棒に遭っていた。犬も何度か盗まれていた

とうとう両親とちーちゃんは再会することなく何年も時を経た。

母の気持ちが微妙だった理由はちーちゃんが姉の横にいたからだと思う。

しかし

私は、昔見た赤ちゃんだった姉と写っているちーちゃんの写真から察するに、きっとちーちゃんは家族を守るためにあの時(山に迷った日)出てきてくれていたんだと思う。

ちゃんと私達は家に帰れたのだから

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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