中編5
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もう一度

俺が小学生の頃、風邪をひいて寝込んでいた時の話。

いつもは2階の自分の部屋で寝ているんだけど、そういう時は居間の隣の仏間に布団を敷いてもらい寝ていた。

襖の向こうに家族がいるという安心感と、トイレが近いという理由からだ。

その時の風邪は熱が凄く高く出てしまい、かなり体が辛かった。

なので、いつもなら襖を開けて布団に横になりながらテレビを見ていたりするのだが、その日は襖も閉めてもらって寝ていた。

母親が心配して何度も様子を見に来たり、欲しい物はないかと聞いてきたりしたが、時々水分をとる以外は眠っていた。

昼頃、母親が「買い物に行ってくるけど大丈夫?」と聞いてきた。

俺は頷き、「アイスも買ってきて」と頼んだ。

「ご飯は無理だけど アイスなら食べれるかもしれない。」

母親は少し考えてから

「ん〜……仕方ないね。

お粥、少しでも食べれたらその方がいいんだけど。

すぐ行って来るから待ってて。」

そう言って出かけて行った。

高熱の為か、体が布団に沈み込むような重さを感じる。

なんで今回はこんなに熱でちゃったかなぁ。せっかく学校休めたのに。

少しだったら今頃、いつもは見れない時間帯のテレビを見ながら、マラソン大会の練習をしてるであろうクラスメートをかわいそがっていただろうに。

こんなに辛いなら学校の方がましだったかも……。

そんな事を考えながら、俺はまた いつの間にか寝てしまっていた。

口の中がヒヤリとして、俺は目が覚めた。

……なんだ?冷たい。

口の中を確かめると、それは小さな氷のかけらだった。

「あら、起きたんけ〜。熱がたけぇから、氷砕いてやったど。うまかんべ?」

見るとお婆ちゃんが、コップに細かく砕いた氷を入れて 座っていた。

「うん、美味しい……。」

口の中の氷は、熱の為かすぐに溶けてなくなってしまっていた。

「もっと食うか?」

俺は もっと、とねだるように口を開けた。

「ほぅか美味いか〜。ゆっくり食いな〜。」

お婆ちゃんは嬉しそうに言うと、少し大きめの氷を選んで口に入れてくれた。

「ほうだ、婆ちゃんな、卵のお粥作ってやったから。少しでいいから食いな?」

「……あんまり食べたくない。」

「少しでもいいから。でねぇとお医者様のお薬 飲めねから。」

困った顔をしているお婆ちゃんの顔を見た俺は、なんだか申し訳ない気がして 思わず

「じゃあ、少しだけ……。」

と言ってしまった。

「ほんじゃ、今持って来るから待っててな。」

ニコニコしながらお婆ちゃんは、よっこいしょと立ち上がり台所へと歩いて行った。

どうしよう……。本当に一口しか食べれなかったら、お婆ちゃん 悲しむかも。

そんな事を考えている間に、お婆ちゃんはお盆にお粥と急須と湯飲みを乗せて戻ってきた。

「さ、食べてみな〜。熱いから気ぃつけてね。」

どうにか体を起こし、一口食べてみる。

「……美味しい!!」

お世辞抜きに凄く美味しい、このお粥!

驚いた事に、このお粥を一口食べたとたん 俺のお腹がぐ〜、と鳴り出した。

結局、ハフハフとお粥の熱さと闘いながら、お椀一杯分の量をペロリとたいらげてしまった。

俺が食べている最中も、お婆ちゃんは俺のおでこや首の辺りを、冷たいタオルで拭いてくれていた。

「ありがとう、凄くおいしかった!」

空になったお椀をお婆ちゃんに見せると、

「あら〜!凄いね〜!これで元気になるわ。

あとはお薬飲んで、ちゃんと寝てりゃすーぐに治っちまうからな〜。」

そう言って、何度も俺の頭をなでてくれた。

小さい子みたいにされて少し恥ずかしかったが、嬉しかった。

その後薬を飲んでから横になると、お婆ちゃんは俺が眠るまでいろんな話をしてくれた。

戦争がいかに悲惨な出来事だったかとか、若かった頃のお爺さんとの出会いや、小さい頃の遊びの話など。

どれも興味深くて、夢中になって聞いていたが 知らない間に寝てしまっていたようだった。

気づくと母親が帰って来ていて、お婆ちゃんはいなくなっていた。

汗をびっしょりかいて起きた俺は、体を拭いてもらってから着替えるとすっきりと体が軽くなっていて、熱もだいぶ下がっていた。

「台所に余ったお粥があったけど、誰か来てくれたの?」

母親が不思議そうに聞く。

そう、実はうちは 父 母 俺 弟の四人家族でお婆ちゃんはいない。

だけど田舎だったので、近所の人が勝手に入って来る事も珍しい事ではなかった。

「お婆ちゃんが来た。」

「お婆ちゃん?〇〇さんかしら。それとも、××さんとこのお婆ちゃん?」

「違う。背が小さくて、腰が曲がってて、笑うと目が線になっちゃうお婆ちゃんだった。」

「ん〜…そんな小柄なお婆ちゃん、近所にいたかな〜。お礼の電話しなきゃいけないし、名前聞いててくれたら助かったんだけど。」

「近所の人じゃないよ、ほら、あの人だよ。」

そう言って俺が指さしたのは、部屋に飾ってある写真のうちの一枚だった。

母はそれを見て笑いだした。

「そっかぁ、あんたぐらいの年じゃ あんまり年寄りの顔は区別つかないよね。あの写真の人は、母さんのお婆ちゃんなの。

あんたが生まれる前に 天国に行っちゃったのよ。」

「でも本当にあの人だったもん。」

はいはい、と言うと母は 笑いながら台所へと行ってしまった。

少しして 母の「あっ!」と言う声が聞こえ、そっと台所を見に行くと、母はおたまを口につけたまま固まっていた。

「このお粥の味……。」そう呟いて涙をぽろぽろと流し、

「お婆ちゃん……本当に来てくれたんだね。」

と俺を見て微笑んだ。

俺はそれから二、三日して風邪は治り元気になった。

お婆ちゃんが好きだったという羊羹を仏壇に供え、家族全員で手を合わせ お婆ちゃんに感謝した。

お婆ちゃん(俺にとっては曾祖母になる)が現れたのはその一回きりだったが、お婆ちゃんがしてくれたいろんな話や頭を撫でてくれた温かさは 今も忘れていない。

とっても小さくて、とっても可愛かったお婆ちゃん。

あの時は本当に ありがとうございました。

もう一度、あなたに会いたいです。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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