短編2
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田舎の暗部

 私が高校生の時にお世話になった美術の先生は、よく私達に怖い話をしてくれた。

 話好きな方で、年配だったので人生経験も豊富。明るく語られる話は、いたいけな(?)高校生をトイレに行けなくさせたものだ。

 そんな先生の初任校の話。先生の初任校は県内の寂れた地区だった。

 私の地元は県庁所在地だったが、それでも田舎だった。自宅からコンビニまで徒歩一時間である。そんな私が「田舎」と呼ぶような場所であるから、どれほど田舎かは想像して頂きたい。

 先生は初任給で買ったピカピカの自転車で、家庭訪問を行ったという。

 先生はふと妙な感じがした。道行く人がいやにじろじろと自分を見ては、ひそひそと囁きあっているのだ。閉鎖的な山村である。見知らぬ顔の若い男が物珍しかったのだろう。

 いやな感じだが、気にするほどでもない。先生は一軒目に訪問した。

 仲間意識の強い田舎である。先生はどの家でも一家をあげて歓迎されたという。

 茶や菓子はもちろんのこと、昼から酒を出され、皆がこぞって食事を用意したがる。先生は丁重にお断りしつつ、大幅に遅れて最後の家に到着した。

 その家でも、先生は大いに歓迎された。秘蔵だという蛇の漬け込まれた酒を出され、美味しい夕食までご馳走になった。

 さて、帰ろうかという段階になって、生徒の父親が泊まっていけと言い出した。

 お言葉はありがたいが、まさかそんなわけにもいかない。お断りして玄関に回ると、自転車が無い。

 隠されたのだ。

「泊まったよ。仕方ないから」

 先生は言う。泊まったらしい。見かけに似合わず豪胆である。

 オチは無い。ただ、客人をもてなしたいがために客人の足を隠す、という悪意とも善意とも言い難い行動がひどく不気味だった。

怖い話投稿:ホラーテラー 元美術部員さん  

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