短編2
  • 表示切替
  • 使い方

電車で

私は職場まで電車で通っている。

毎朝、必ず同じ時間に同じ車両に乗る。

その車両に、3歳ぐらいの少女が、母親と手を繋いで立っている。

朝は混むのでなかなか座れないのだが、少女は文句の一つも言わない。

この母子も毎朝同じ時間に同じ車両に乗るようにしているようで、毎朝必ず見掛ける。

少女は笑顔で荷物棚に向かって手を振った。

これは彼女の日課のようだ。

一度、母子がこんな会話をしていた。

「あら、誰に手を振ってるの?」

「赤ちゃん!」

「赤ちゃん?」

「あそこの赤ちゃん!」

そう言って少女は、銀色の荷物棚を指差していた。

母親は不思議そうに首をかしげ、そういう遊びだとでも思ったのか、とりあえず納得したようだ。

私はそれ以来、少女が気になって仕方がない。

ああ、今日も手を振っている…と少女を見つめた途端、車両中に絶叫が響き渡った。

「ギャー!!!」

叫び主は少女だ。驚いた母親が、慌てて少女に問いかけた。

「どうしたの?!」

「お化け!!!お化け!!!」

少女は号泣して母親に抱きついている。

しばらく落ち着きそうにもなく、母親は周囲に軽く頭を下げ、次の駅で降りた。

私は知っている。

数年前、この線の電車の荷物棚に赤ん坊の死体が置き去りにされているという事件があった。

それはビニール袋で何重にも包まれ、紙袋に入れて棚に放置されていた。

妙な忘れ物だ、と不審に思った乗客が駅員に知らせて中身が判明した。

赤ん坊の身体は、すでに腐りはじめていたという。

すぐにニュースになり、犯人は自主してきた。

犯人は赤ん坊の母親で、出産直前に離婚した事が原因でノイローゼになっていたと言う。

離婚届けを強引に押し付た夫は、子が産まれる前に失踪したそうだ。

確か、そのニュースを知ったのはこの時期だった。

もしかすると、今日は赤ん坊が置き去られた日なのかもしれない。

発見時の姿を見せて、母子に何かを伝えたかったのだろうか。

私には何もない荷物棚しか見えない。

そのため、この話は全て憶測で語っているが、きっと間違いではないだろう。

失踪した友人の代わりに、私は荷物棚に向かって手を合わせた。

怖い話投稿:ホラーテラー えすさん  

Concrete 59189e6fb4d79119a63e92183ffb92aeb8f46031afd97d5db060811ce15c35e6
閲覧数コメント怖い
15100
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ