中編6
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風穴

去年、9月の日曜日のことです。

名古屋から、友人(女)が遊びに来ました。

その友人は、私の同居人(女)との共通の友人で、年は離れてますが、時々一緒に遊ぶのです。

で、女3人、かしましく伊勢の方までドライブしました。

二見、伊勢神宮、天岩戸と回って帰宅予定だったのですが、あいにく三連休の中日のためか、お伊勢さんがすごい人出でして、道は渋滞するわ駐車するのも時間食うわで、最終目的の天岩戸についたのが、午後5時。

ここは、秋田さま、ご存知かも知れませんが「日本の名水百選」に選ばれた場所で私は当然ながら、ステンレスの水筒を持参しておりました。お水を頂戴しようとね。

ここは、山深い道を昇って行きますと、いわゆるアマテラスオオミカミがお隠れになったという洞窟のようなものがありまして、そこから素晴らしくうまい水が湧いているわけです。

横にはお祀りしている神社も、あります。

以前一度、訪れたことがありますから、大体雰囲気はわかってますが、とにかく鬱蒼とした場所です。とても空気の綺麗なところで、どでかい樹もたくさんありますし森林浴にはもってこいの場所なんですが。

しかし、それ故に、暗いんです、あたりは。

この日の日没は17:52。早く上まで昇って水を汲んで帰ってこないと、山奥ですからすぐに真っ暗になってしまいます。

街燈などは当然ですがありません。民家のないところですから。

そういう山奥で夜を迎えた方は、おわかりになると思いますが、いったん闇になってしまうと、本当に何も見えないんですよね。

手を伸ばしてみて、自分のその手が見えないんですから。

そういうコトには、なりたくありません。懐中電灯など持ってきてませんから。

神社に至るまでの灯篭はありましたけれど、おそらく蝋燭を灯すのは年末年始か特別な行事の時だけと思われます。宮司さんの姿すら見かけないのですから。

狭い駐車場に車を停めたのが、ちょうど17時過ぎ。片道15分とすれば、まあ、何とか間に合います。

往路は何事もなく、無事に水の場所まで行けました。

これでお参りして、戻れば充分余裕です。

ところが、戻ろうという時になって、同居人(仮にKとしておきましょう)が更に昇りの道を指し、

「風穴だって」

私も看板を見て、「本当だ」と言い、「次はそこまで行きたいね」と言おうとしましたら、

「行こう!」

と何のためらいもなくKが言って昇り始めるではありませんか。

もうすぐ、日が暮れるというのに!しかもその道はこれまでの水場への道とは違い、舗装すらされてない、本当の山道です。人のすれ違いも出来そうにないくらいの細い道。

おまけに右側は崖っぷちです。暗くなって足を踏み外したら、ひとたまりもありません。

私は心の中で「おいおいおい!」と叫びましたが、名古屋から来た友人(Tとしておきます)も、後から昇り始めます。

(T、お前パンプスじゃないか!)と思いましたが、彼女らは私よりも若い。

はるかに若い。無謀さを咎めても旅情がしらけるだけかも知れない、と思って仕方なく私も昇りはじめました。

往路をよく覚えておこうとゆっくり歩いたため、大分遅れてしまい、彼女らはすぐに見えなくなりました。

途中、左手に鳥居がありました。道は、まっすぐ、前に伸びています。

そして、鳥居の横にあった「風穴」という看板も、まっすぐの矢印を示しています。

私は、鳥居を見て、前の道を見て、ということを何度も繰り返している内に、妙な看板を発見しました。

「林内、立ち入り禁止」

…この道は林の中に通じているように見えるんだが。

行ってもいいんだろうか。

A:このまままっすぐ進む

B:やはり危険だ、引き返そう

C:「おお~い」と情けない声を出してみた

…こんなトコロで、サウンドノベルごっこをしている場合ではありませんね(笑)。

はい、私が選んだのは「A」でございます。

まあ、恐る恐るでしたが、とりあえず進みました。右側の谷底に注意しながら。

昇ったり降りたり、という山道がしばらく続きましたが、時刻はそろそろ17:40。

日没まであと10分くらいしかありません。今更のように、携帯をポケットから出してみましたが、当然のように「圏外」です。

ちょっと途方に暮れかけていたころ、前方で、二回、拍手の音がしました。

よく見てみると、はるか上のほうに、Kの茶髪が見えます。

どうやら、彼女らは無事に風穴まで到着し、そこを拝んでいるようです。

私はほっと胸を撫で下ろしました。

無事が確認できたなら、私はわざわざ行くこともないや、ここで待っていよう、と思いました。

そうしている間にも、どんどん日は暮れていきますから。

やがて二人ともの無事な姿が見えたので、

「おーい、大丈夫かー」

と、私は声をかけました。

「ごめーん」と二人は降りてきます。

私は、ぬかるみの場所などを教えながら、今度は私が先導して下りました。

水場に降りてきたのが、17:50。日没まであと2分。ギリギリです。

まあ、水場まで来れば、あとは駐車場までは一応舗装されてますから、安心です。

「どうだった」

との私の問いに、二人は

「すごかったすごかった」

「うん、あれは常世の入り口だ」

「何か、亡者の声、聞いちゃったよ」

「風の音とは思えないよね、あれは」

などと、矢継ぎ早に物凄さを語ってくれました。

そして、彼女らは更に「古事記」や「あの世」の話をしつつ、私の前を歩いて行きました。

私は彼女らの後ろから、話を聞きつつついていったのですが、その時、妙なモノを、先ずはTの左肩に発見しました。

私から見ると、Tが右側、Kが左側を歩いていましたが、その妙なモノは、Tの左肩で少し「わしゃわしゃ」と動いたかと思うと、ふいにKの右脇腹の辺りに移動(というかジャンプ)しました。

それは、黒くてぼんやりしたモノで、知ってるヒトは判ると思うのですが、「ケムンパス」のようでした。「トトロ」に出てきた「まっくろくろすけ」がもう少し大きくなったカンジです(ドッジボールより少し小さいくらい)。

でも、羽根っぽいモノもありまして、それが時々「わしゃわしゃ」と羽ばたくように動くのです。

はっきり見えたわけではなく、ぼんやりとしか見えませんでしたので、顔とか目とかそういう具体的な部分はわかりませんでしたし、あったのかどうかすら判然としません。

そういう、「ワケわからんモノ」が、よく見ると数体、Kの腹から肩に登ったり、またTの頭に飛び移ったり、とにかくひっきりなしに二人の間を、行きつ戻りつ、ぴょんぴょんしているのです。

「妙なモンがいるなあ」と思いましたが、あまり恐怖感を感じませんでしたので、あえて黙っていたところ、駐車場に出るところの鳥居をくぐった途端、それは見えなくなってしまいました。

多分、あの鳥居の外には出られないんだな、と私は判断し、そのまま何も語らず車を走らせました。

別に事故にも遇わず、無事に鈴鹿まで帰って来られて、幸いです。

で、名古屋の友人Tが帰宅してから、私は初めてその話をKにしました。

すると、Kの話によれば、風穴は確かに気味が悪く、自分でも今思うと何故あんな無茶な時間に行こうとしたのか、わからない、とのこと。

Kは普段、かなり怖がりなタチで、そのくせ取り憑かれやすく、普通の神経状態ならまず行かない筈なのです。それは、Kも認めました。

「なんか、よばれてたのかも」

お賽銭を入れる箱があったので、そこに手を伸ばしたところ、穴からの風を直接浴びてしまったのだそうで、「腕が気持ち悪かった」。

注連縄もあったそうですが、「あんなの、いつ取り替えたかわかんないくらい古いよ」だそうで、役に立っているのかどうか。

それと、これもあとでわかったのですが、私もTも見ている、途中の鳥居を、Kは「全く記憶にない」のだそうです。

風穴の看板を見た途端「行かなければ」という思いが働いて、昇り始めた。

風穴についた途端、今度は「日没までに戻らなきゃ」と必死に山を下った。

Kは、そんなふうに語ってくれました。

…なんか、怖い話になってますかしら、これって。どうも語るのが下手なものですから。

今度は、ちゃんと日のあるうちに、私も風穴まで昇ってみたいと思います。

でも、Kったら、あれから遊び過ぎで疲れたのか、微熱が下がらないんですよね。

月曜も病院行って、点滴とかしてもらって、医者は

「新しい風邪かなあ」

と言ってたそうですが。

明日も、病院行くそうです。下がらないから。

「風穴の風にあたったから、『風邪』」なんて、洒落になりませんよねえ。

きっと遊び疲れです、うん。私はそう思っています。あははは。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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