長編8
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デスマスク

怖いというより、不思議な体験でした。長文になってしまいますが、読んでいただければ幸いです。

それはまだ携帯もパソコンも普及していなかった頃――

大学四年の春、俺は友人三人(仮にABCとします。)と旅行をした。

旅行の二日目に行った某市で、ある文学館に立ち寄った。

その文学館にはKTのデスマスクがあった。

特高の拷問で死んだあの文学者のKT。

文学館にはKTの資料と共にデスマスクが展示してあった。

石膏で出来ているそのデスマスクは生々しさはないが、悲しげな表情をしているように見えた。

『へぇ、これがデスマスクか…。大変な目に遭って亡くなったんだよな…』

『石膏だけど、よくできてるな』

『型をとる人はどんな気持ちだったんだろうな…』

そんな話をしていると、Aはおもむろにカメラを出し、デスマスクの写真を撮った。

『A、こういう博物館みたいなところで写真はマズイんじゃないのか?』

と俺が声を掛けるとAはビクッとして俺達の方を振り返った。

写真を撮ってしまったこともあり、俺達はそそくさと文学館を後にした。

そんな旅行から帰って三日後。

旅行の時撮った写真が出来たから皆で見ようということで俺のアパートに集まった。

例のデスマスクの写真を見た俺達は固まった。

『…心霊写真……か。』といつも冷静なC

石膏のデスマスクがやや左上に写っている。そして、中央にもうひとつ…

デスマスクを倍の大きさの顔が写っている。

よく見るとそれはデスマスクと同じ顔だ。

しかし、表情と顔色が違う。

デスマスクは当然目を閉じた白色のマスクなのだが、中央に写っている物はうっすらと目を開けているように見え、顔色も黄色で所々痣のような赤紫色になって腫れている。

白いデスマスクにフラッシュの光がハレーションを起こしたのでは?とも考えたが、それはない。第一フラッシュはたいていない…

ああでもない、こうでもないと四人で話しているときに突然、聞き慣れない音がした。

四人共、かなりビビった。

音は就活の為に引いた俺の家電話からだった。

受話器が外れていることを知らせる音だった。

『わりぃ、受話器外れてたみたいだ。』

三人は少しホッとし

『ったく、脅かすなよ。』

『すげぇタイミング。』

などと言いながら俺を小突いた。

それぞれ帰る時間となったのだが、例のデスマスクの写真をどうしたらいいのか決めかねていた。

捨てる勇気もなく、かといって誰も持っていたくない…

結局撮影したAが持って帰ることにした。

『じゃ、また来週な。』

三人を送り出した後、俺はある事に気が付いた。

その日、俺は電話を使っていない…もちろん、他の三人も触ってもいない。

何故あの時、受話器が外れたという音が鳴ったのだろう…。

鳥肌がたった。

あの写真と関係ある?

俺はAが気になった。

翌週、学校でBCに会い、いつもの喫茶店で喋っていた。

二人に受話器の話をしたが、それが例の写真と関係があるかはわからないし、まあ、Aも大丈夫だろうということになった。

そこへAが現れた。

何か起きなかったかと三人が口々に聞くと、

『夜、声が聞こえるんだ…』

とAが答えた。

Aの話―

写真を持って帰った日の夜からそれは始まった。

夜もふけ、さあ寝ようかと布団に入った時、ふいに聞こえた。

『ゴ…ンナ…』

耳元で静かに聞こえた。

Aは昼間の心霊写真話を思い出しビビった。

しかし、それだけでだった。

金縛りにもならなかった。

気のせいかと思いそのまま寝た。

ところがその声は毎晩聞こえる。

これと言ってそれ以外の心霊現象は起きないのだが、さすがに気味悪くなりその声を聞かないように、ウォー〇マンを使ったりしたが、曲と曲の間の短い空白の時を狙ったように耳元で聞こえる。

声は日に日にハッキリとしてきた。

声は老女のような声。

…そして言葉は『ゴメンナサイ』

Aは女の霊に謝られる覚えなど全くないし、どういうことだろうと俺達に聞いてきた。

いつも冷静なCが

『池尻の電話も、Aのとこに来る声もあの写真を見てからだいね…やっぱり関係あるんじゃないんかねぇ…

あの写真、俺が持って帰るよ。

俺にも聞こえたら、そりゃ間違いなく写真のせいだろう。』

学校帰りにAのアパートに寄り、写真はCの所へ。

結果は明日。

ということになった。

翌日―

俺達はCのマンションに行った。

『んで、どうだった?』とA。

『結論から言えば、この写真だな。

俺のとこにも来たんだいね、声。』

『んで、大丈夫なのかよ、俺達?』とビビリのB。

『俺の仮説を聞いてくれるか?』

Cが話始めた。

まずKTは男性だから、本人の霊ではない。

しかしKTのデスマスクの写真とともにこの現象。

KTと深い繋がりがある女性の霊ではないか。

それが誰かわかれば、何が目的であるかわかるのではないか。

Cがその声を聞いて感じたことは、悪意がないことと言葉に訛りがあったことだった。

『まずはKTに関わりの深い女性について調べて見よう。』

俺達は文学館での資料などを読み直した。

作家KT―

秋田で生まれ、四歳で某市に移住。

大学卒業後、銀行に入社。

妻Tは家が貧しいが為、13才で酌婦になっていたのを身請けし、家族として迎えた。

その後労働活動に力を入れ、特高に追われるようになり、地下に潜伏。

KT母親想いは有名で、潜伏していることを母には隠し、プロレタリア文学の著者としての原稿料を母に送り続けた。

その後、特高に捕まり、拷問死。

拷問死した遺体は特に下半身が赤黒く変色し、睾丸は数倍にも腫れ上がっていた。

特高を恐れ、検死する医師もなく、死因は急性心筋梗塞とされた。

その遺体に縋り付き泣きつくす母の様子まで解説されていた。

『妻か、母か…。

妻の方は同居していたが自ら家を出ている。となると母親だな。』とC。

『あのさ、ゴメンナサイって謝っている意味じゃないかも。』Bが突然口を開いた。

『母親だとすると方言は秋田弁だろ?俺の祖母さん秋田出身だけど、よそんちに入るときゴメンナサイって言ってたぞ。』

『じゃ、まだ話を聞く前の状況だな俺達。』とC。

『おい?話を聞くつもりなのかよ?俺、マジ怖いっ。』とB。

『ちゃんと聞いてやんなきゃ、ずっと来るぞ。』Cが少しムッとした様子で答えた。

『俺達でどうにかできることなのか?』俺は心配になった。

『あのさ、幽霊って言っても肉体がないだけで気持ちは一緒だろ?

金縛りにもあわせない霊だぜ。話を聞いてやるくらい大丈夫だよ。』Cが何か確信めいて言った。

ここで今まで沈黙していたAが決心したように言った。

『よし、やってみよう。俺もこの霊は悪いものとは思わない。

Bは無理に付き合わなくていいぞ。池尻はどうする?』

『わかった。俺も手伝うよ。

B、お前はどうする?』

『…怖いのは嫌だけど、俺一人別行動っていうのも怖いから一緒にやるよ。』

『じゃ、決まりだな。今夜またここに集合しよう。』

俺とACは一度それぞれの部屋に帰り、Cに言われた通り風呂に入り清潔な服に着替えた後、改めてCのマンションに集合した。

部屋に入るとCは線香を焚き、既に掃除を済ませたようだった。

『んで、どうするよ?』とAが聞くと、

『待つ。

お前が声を聞いた時間も俺が声を聞いた時間も12時前後だ。

あと2時間ほどだな。まあ、それまでは普通に過ごせばいいだろう。』

俺達はTVを観ながら過ごしていたが、時間が近づくにつれ、緊張し始めた。

その間もCは線香が絶えないように気を配っている。

なんでも、声と共に感じた香と出来るだけ近い香だそうだ。

『近いものが何かしらあった方がいいかと思ってな。』

線香に火を点けながら言った。

ちょうどその線香の煙がまっすぐ昇った時、その声はふいに聞こえた!

『ゴメンナサイ…』

俺達は顔を見合わせた。

四人共聞こえたらしい。

Bはマジで固まっている。

『どうぞ、入ってください。』さすがのCも緊張している。

線香の煙がたなびき、燃えている部分が一際赤くなった。

『な、なんのご用ですか?』Aが震える声で尋ねた。

Cは涙目で震えている。

俺は線香の煙の行方を目で追っていた。

煙は不思議ことに大きな輪となり俺達の頭上に浮いている。

『…シテ…エ。カエ…タン…。』

『なんて言ってんだよ?』AがCに小声で聞いた。

『…よくわかんねぇなぁ…おい、B、わかるか?

お前の祖母ちゃんの言葉でなんかないんか?』

皆の視線がBに集まった。

『あっ?』

俺は小さく声を上げてしまった。

俺達の頭上で輪になっていた線香の煙がスッとBの周りに纏わり付いたように見えたからだ。

Bがいきなりテーブルに突っ伏した。

『…ケエシテタンセ…オガミネデケレ…』Bが呟きながら顔を上げた。

Cの目はつぶられ、無表情のまま呟き続けている。

『おい!Bぃっ?』

俺は慌ててBの肩を揺すったが、反応はない。

『…イダマシガッダ…ナ』呟いている。

Cがメモを取る準備をした。

Aが意を決したようにB?に質問した。

『アナタは私達に話かけていた人ですか?』

『…ンダ…。』

『何かご用ですか?』

『シャシン、ケエシテタンセ。

イダマシ…ムスコノ…アノ、カオヲミネエデタンセ。』

『写真を返してほしいんですね?』

『…ンダス。

ナンボ イデガッタガ…

ツラッコ ハレデ…アシモ テモ…

イダマシ、イダマシ…

ダレサモ ミセテグネノ…』

『わかりました。写真は誰にも見せません。俺達、ちゃんと写真も返しますから。もう安心してください。』Cが言った。

『…ナントカ タノムス…ヘバ ゴメンナサイ…』

線香の煙がスッと真上に立ち上がった。

Bがまたテーブルに突っ伏して寝息をたて始めた。

『もう帰ったのか?』

誰とはなしに俺は聞いた。

『あぁ…たぶん。』Cが答えた。

『息子の無残な顔を見せたくなかったってことか?』Aが呟いた。

『じゃなんで、写真に写ったんだろうなぁ…』

俺は不思議に感じAとCに聞いた。

『母親の気持ちとは別の誰かの気持ち…かな。

わからないなぁ…』とA。

『意外にKT自身はまだ何かを伝えたかったのかもな。』とC。

翌朝、目覚めたBは何も覚えておらず別段体調も悪くなかったようだった。

俺達は無断で写真を撮ったお詫びの手紙と共に写真を文学館に送った。

もちろん俺達以外に写真を見せることもなく、ネガも処分した。

随分年月が経ち、KTの作品が世間の注目を浴び、映画化されるまでになった。

俺はあの時Cが言った

『意外にKT自身はまだ何かを伝えたかったのかもな。』

という言葉を思い出した。

読んでくださった方、ありがとうございました。

怖い話投稿:ホラーテラー 池尻大橋さん  

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