短編2
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自販機を叩く男

六年ほど前の冬のこと、寝ていると外から何かを叩く音が聞こえてきた。

ガンガンガン!

こんな感じで、結構な騒音だった。

時刻は、午前1時を少し経過している。

私はカーテンを少し捲り、音が聞こえた通りを見下ろしてみた。

自販機にもたれ掛かるように立つ男が一人…。

しばらく様子を見ていると、その男は、頭を自販機に付けて、もたれ掛かったまま、拳を振り上げ再び叩きだした。

『…酔っ払いが…』。

私は、わざと窓を強めに開き、声を上げた。

『ちょっと!何時だと思って……』。

思わず声を止めてしまった。

窓を開ける一瞬の内に男は自販機に背を向けて、こちらを見ているみたいだったからだ。

十数秒の沈黙がやけに長く感じ、背筋が寒くなるような感覚を覚えた。

程なくして、車のライトが左側から差す。

そして、背の高いボックスタイプのワゴン車が一瞬、男の姿を視界から妨げ、そのまま過ぎ去って行った。

人が立っているのにずいぶんと乱暴な速度で過ぎるもんだ…。

ワゴン車を見送った視線を再び戻すと、既に男の姿は無くなっていた…。

数日経ってそんな出来事も忘れた頃、帰りが遅くなった私は、コーヒーを買ってから部屋に入ろうと、自販機の前でポケットから財布を出そうと探していた。

(財布が)あった…と、思った瞬間、私の記憶は病院のベットに寝かされている状況から再び始まった。

妻と息子が心配そうに私を見下ろしている。

医師、看護師以外に知らない男二人がいて、慌ただしく病室から駆け出して行く。

『……何なんだ…』。

第一声がこれだった。

後に、駆け出して行った二人から詳しい話を聞かせてもらったが、私はひき逃げ被害にあったそうだ。

もう、お分かりだと思うがその二人は警察官で、現場と、私の頭がめり込み破損した自販機の写真を見せられた。

当然、憶えてはいないが、頭を自販機にめり込ませたまま、何度も叩いていたそうで、その拳の形の血の跡が付いていた。

まさかとは思うが、あれは未来の自分の姿だったのだろうか?

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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