中編3
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雨の日 深夜 サイレン

中学の頃の話。

ある雨の日、布団に入っていながらなかなか寝付けなかった俺は、時計を見て時刻が2時半を過ぎたことを知り、次の日の朝が辛くなることに焦り余計に目が覚めていた。

眠ろうとすればするほど目が覚める。感覚が研ぎ澄まされ、視覚や聴覚が敏感に反応する。規則的な時計の針の音や、窓を打つ雨の音。遠くを走る車の走行音、電気の消えた部屋の隅の暗がり。

その日学校で怖い話をクラスメイトとしたからだ。なんでもない音のひとつひとつが今にも自分を襲わんとする怪物の鳴き声のよう。

あの部屋の隅の暗がりに、もう怪物はこちらの様子を伺っているのでは?今か今かと襲うタイミングを図っているのでは?

そんな妄想をして一人布団にくるまっていた時だった。雨の音が少し弱まった気がした。遠くを走る車の音がいっそう聞こえる。サイレンの音が耳に入った。

救急車じゃない、こんな時間にもパトカーか。警察の人も大変だなぁ。

まとわりつく怖さを振り払うように考えた。

近いな〜。何があったんだろう。

パトカーのサイレンは音をならしながら段々家に近づいている気がした。

近いよこれ。

家の前・・・。

音の大きさからして家の前に停まっていることがわかる。

お向かいの家で何かあったのかと思い、布団から出てカーテンを少しだけあけた。この時俺の好奇心は先程までの恐怖心に圧勝した。今になってこの時好奇心を抑えることが出来なかったことを後悔している。恐怖心は案外弱いものだ。

十センチくらい開いたカーテンを覗き込むと、そこにはあるはずのパトカーの姿はなかった。気づけばサイレンの音も聞こえなくなっていて、もう1つ向かいの家かな?と思った時に気づいた。

向かいの家の窓を、覗きこんでいる人がいた。

頭は中途半端にはげていて、雨に濡れた髪の毛がベッタリと頭に張り付いている。中年太りのようなお腹で腹巻きをしていた。なにやらニヤニヤしながら向かいの家を食い入るように覗きこんでいる。

うわ、危ない人だ!と思ったとき、その人がグルッッとこちらに振り向いた。

ヤバいっ!!と思いすぐにカーテンを閉めたが、一瞬目が合った気がした。

どうしよう・・・、とりあえず母さんを起こそうかな?それとも警察?でもなんも悪いことしてないし・・・、

色々な考えが頭をよぎる。

20秒くらいたった時だった。

ウーーーゥーーーウー

パトカーのサイレンの音が聞こえた。

間違いなく、窓のすぐ外で。

恐る恐るカーテンをあけた。

先ほどの中年太りのおじさんが満面の笑みで、黄ばんだ歯と黒ずんだ歯茎を見せた口をありえないぐらいぐいっとあけ、手をバタバタ振りながら、人間の声量とは思えない程の大きさでパトカーのサイレンの音を口から出していた。

おじさんはずっと俺の目を見たままサイレンの音を口から出していた。

見つめられていたときはなぜか動けずカーテンを閉めることさえ出来なかった。俺にはそれが何時間も続いているように感じられたが、実際には数分だったと思う。

気がつけばおじさんはいなくなり、外は明るくなっていた。

本当に気づいたら朝になっていて、いつ、おじさんが消えたのかもわからなかった。

がとにかく怖かった。なぜパトカーのサイレンを真似ていたのか。満面の笑みで。

それからというもの、パトカーのサイレンの音を聞くたびに俺は鳥肌がたち、動けなくなるようになってしまった。

あとその日学校に遅刻したのは言うまでもない(笑)

怖い話投稿:ホラーテラー Mr.レインさん  

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