中編4
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親と子の絆

友人のSさんの体験・・・

Sさんは地元の中学校で今でも教鞭を執っている。

20年程前、彼は30代前半の熱血教師として仕事に情熱を燃やしていた。

ある日、彼のクラスの生徒が、下校時に交通事故で亡くなる事件があったそうだ。

亡くなった生徒はT君という3年生で、ハンドボール部に所属していた。

ハンドボール部の顧問も勤めていたSさんは、大変ショックを受け、告別式にも生徒と共に出席したが、悲嘆に暮れるご両親にかける言葉もなかったという。

その2ヶ月程後、ハンドボール部は、みごと県大会で何十年かぶりの優勝を遂げたそうである。

あいつも大活躍していたはずだ・・・・

SさんはあらためてT君の悲劇を悲しんだ。

 そうだ・・・!

 Sさんはふと、T君の家に行き、遺影に優勝の報告をしようと思いついた。

四十九日も過ぎたことだし、ご両親も喜んでくれるだろう・・・あいつもきっと喜んでくれるはずだ・・・

 さっそくその夜、SさんはT君の家を訪れた。

アポもなしで失礼だったかなあ?・・・まぁ、いいか・・・・

そんなことを考えながらドアフォンを鳴らした。

はい・・・

中から小さな返事があった・・・陰湿で疲れきったような弱々しい女性の声だ・・・・そして、ゆっくりとドアが開いた・・・

「あっお母さん、Sです。○○中学の・・・突然、お邪魔して申し訳ありません・・・・実は・・・」

その時、T君の母親は顔面蒼白で、何かに怯えるように叫んだ・・・

「せ、先生!!ど、どうして来てしまったんですか・・・電話を、電話をいただければ・・・どうして来たんですかぁ!!」

「・・・あっそれは・・・すみません・・・そのぉ・・・」

母親の剣幕にしどろもどろしていた時である・・・

半開きになったドアの下から・・・つまり母親の足元から・・・Sさんは、何者かに足首を強く掴まれた・・・ それも握り潰されるような信じられないほどの握力だったという・・・

 ひぃっ!うわあぁ!!

その時、母親が血相を変えて叫んだ・・・

「○○(T君の名前)!

やめなさい!!あなたの先生なのよぉ〜!!お願いだからやめなさい!!その人は・・・その人は許して上げてぇ!!」

 Sさんは驚愕し、ものも言えないまま、後ろに尻餅をついた・・・足首は捕まれたままである。

 「お父さん!早く来てぇ!!○○がぁ・・○○がぁ!!」

奥から父親がやって来たのが気配で分かった・・・

「○○!だめだ!!中に戻れ!お前はここまで来てはいけないんだ!!

さあ○○、これが怖いだろう!さあ、こっちに来るんだ!!さもないとこのお札を・・・・!・・・・・よしよし、おとなしくこっちに来い!!」

その時、足首の感覚が急に楽になった・・・それにしても訳が分からない・・・

その時、母親が静かに語りだした・・・・

先生・・・ごめんなさい・・・驚かれたでしょ・・・何から話せばいいのかしら・・・主人も一月前から仕事をしてないの・・・会社やめちゃって朝から浴びるほど飲んでるわ・・・毎日・・・でも、ほとんど酔えないみたい・・・ただ、飲まなきゃ正気でいられないみたい・・・

先生・・・あの子は・・・あの子は・・・まだ・・この世に、この世にいるのよ!!

私達には分かるの!見えるの!!

・・・でも・・・自分の子供に・・我が子に・・法力の籠められたお札を突き付けなければならない気持ちが分かりますか・・・?

家の中にも・・・外にも・・お札だらけよ・・・

たとえもう人間じゃあなくなっても・・我が子なのよ!!この悲しみ・・切なさが・・・先生に分かりますか?

あの子は・・・私達が守ります・・・・

そして、あんな若さで・・・あんな死に方をして・・・

あの子の怨み、嫉み、無念・・・この念は・・・加速度的に増幅していく・・・

 私達は怨霊と化していく我が子を封じなければならない責任があるの!

先生・・・人間って・・・きれいごとじゃあ済まないのよ・・・特に生きるって・・・負けた者が死ぬの!死んだ者は・・・生きる者を喰らおうとするわ。

 先生・・・私達のどちらか先に死んだ方が・・・あの子を必ず連れていくわ・・・

それまでは私達が封じる!私達が守る!

Sさんは茫然自失の状態で、その家を離れたという。

しかし、それにしても・・・・語る母親の目に狂気は宿っていない・・・あまりにも正気な眼差しだ・・・

しかし、あいつは確かに死んだ・・・・・

この世に、あの家に存在する訳がない・・・・・

「いるはずはないんだ・・・・・」

Sさんは溜息をついて、帰路についた・・・

その時・・・

微かな声が聞こえた・・・

い・・る・・・よ・・・・

★★★★★★★★★★★

馴染みの居酒屋で、Sさんはこの話を私に聞かせてくれた。

今でも、足首を掴まれたあの感覚が忘れられないと言う・・・

「でもSさん・・・今になって、どうして話す気になったんです?」と・・私。

焼酎のお湯割りを飲みながら、静かに彼は語った・・・・

「先日、Tの母親が亡くなりましてねぇ・・・連れていったと思いますからね・・」

「なるほど・・・それで・・・」

その時・・・居酒屋の親父が、ネギマを焼きながら呟いた・・・

い・・る・・よ・・・

Sさんと私は、はっとして顔を見合わせた・・・

怖い話投稿:ホラーテラー 洗島の八さん  

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