私が小さい頃に誰かから聞いた話。
昔、ある村に役人の男がすんでいた。
その男には妻子があり、子煩悩な男はたいそう子を可愛がり、美しく優しい妻と幸せに暮らしていた。
ある時、男は村の金持ちの老人と自分の上司の不正を見つけてしまった。
正義感の強い男は、二人を呼び出し不正を問いただした。
その夜、家路を急いでいると自分の家の方が妙に明るい。
急ぎ帰ると、我が家がごうごうと音をたてて燃えていた。
村人たちの助けもあり、火はなんとか消えたが妻と子は助からなかった。
さらに男に不幸が襲う。
なんとあの上司に不正の濡れ衣を着せられたのだ。小さな村故に、力のあるものが弱いものを貶めても誰も救ってはくれなかった。
男は命をもって罪を償うこととなった。
命絶たれる直前に、妻子を殺し火をつけたのは自分だと上司に聞かされた。
絶望のなかでさらに追い討ちをかけるように、村人たちの罵声が聞こえた。
あんなに自分を慕ってくれた村人達が、誰一人としてかばってはくれなかった。
男はお前たちの話は聞きたくないと、耳を引きちぎりこと切れた。
男が死んでからしばらくして、上司と金持ちの老人が死んだ。
二人とも恐ろしい幻聴に悩まされ、耳を引きちぎって死んだそうだ。
二人が何を聞いたかはわからない。だが、その二人の死を目にした村人たちは、次は自分ではないかと恐れた。
そして一人二人とこの地を去り、この潰れた村の辺り一体を耳取峠と呼ぶようになった。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿山名美子さん
作者怖話