中編4
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遅れてきた返信

今から約三十年も昔のこと…

私が通っていた小学校で創立百周年記念式典がありました。

私たちにとってのメインイベントは、式典の最後に、百周年にちなんで、手紙を付けた百個の風船を飛ばすというものでした。

私は当時六年生でしたが、在校生は二百人を超えていたので、風船を飛ばす百人の生徒をくじ引きで選ぶことになったのです。

それはもう、くじに当たりたくて私たちはドキドキしたものでした。

そして、なんと幸運なことに私は風船飛ばしに当選したのです。

私は、

どこまで飛んでいくのだろう…

外国まで飛んでくれないかなあ…

などと、純粋な思いを巡らせながら、風船に付ける手紙を書きました。

『風船を受け取ってくれた人へ。

こんにちは。私は○○市立○○小学校六年二組の○○ゆかです。私の学校は百歳の誕生日をむかえました。少しでも多くの人たちにこのことを知ってもらうために、私たちは記念に百個の風船を飛ばしました。私はもうじき卒業しますが、○○小学校がいつまでもよい学びやであってほしいと思っています。もし風船を見つけてくれたなら、お便りくださればうれしいです。』

と、このようなことを書いたと記憶しています。

そして記念式典の日を迎え、男子は白、女子は赤い風船についたひもにそれぞれ手紙を結わえ、しっかりと持ちました。

校長先生の号令とともに私たちはいっせいに風船を飛ばしました。私の赤い風船はふんわりと風に乗って、空高く舞い上がって行きました。その時の興奮は大変なもので、飛び上がりながら、「行け!行け!上がれ!上がれ!」と叫んでいたように憶えています。

結局百個飛ばした風船のうち、何個か見つけられ、各地から数名の生徒に手紙が返ってきたようです。信じられないことに数百キロも離れた県から便りが届いた人もいました。残念なことに、私に便りが届くことはありませんでした。

それから、私は卒業し中学でバスケット部に入りました。当時私たちのバスケ部はかなりの強豪で、連日猛練習に明け暮れていました。私は家に帰って夕飯を食べ、お風呂に入って宿題だけすましてすぐ寝てしまう、そんな生活を送っていました。

ある日のこと… 母が、

「六年生のときの○○先生がゆかに渡して下さいって、わざわざ家に持ってきたよ。」

と言って一通の手紙を私に渡そうと部屋に入ってきました。

詳しく憶えていませんが、私は眠くて何もする気がしなかったので、

「あ、ありがとう… 明日見るから机の中入れといて… 」

と母にお願いすると、すぐに眠ってしまったと思います。

それから月日は流れました。

その後私は高校、大学に進学、就職してからはずっと一人暮らしをしていました。そしてようやく、友人から紹介された彼と結婚することになりました。もう三十歳になっていました。

手紙のことをすっかり忘れたまま…

私は夫と新居に移り住むために、実家にある自分の荷物をまとめていた日のことです。机の引き出しの奥の方からその手紙が出てきたのです。

私はハッとしました。薄茶色に変色した封筒の表面には、

『○○市○○区○丁目○番○○小学校六年二組○○ゆか様(風船のお便り)』

裏面に、

『○○市 風船を拾ったえり子より』と書かれていました。

何年も忘れていた私は、思わずアッと叫びました。そして、過去へタイムスリップしたような気持ちになり、ワクワクしながら封を切りました。

元々は白かったであろう、中の便せんは月日の流れで薄茶色に変色していて、二枚重ねて四つ折りになっていました。

一枚目には、

『こんにちは。娘のえり子のかわりに母の私が書いています。あなたの風船はすでに割れていましたが、えり子が拾ってきました。お手紙もあじさいの花の下にかくれるように落ちていたそうです。あなたは中学生になったでしょうね。えり子と同い年… お元気なの? うらやましい… 』

と、きれいな文字で書かれていました。

私は変わった文章… と思いながらも、二枚目を読もうと思いました。

二枚目は一枚目にひっついていて、剥がすのに少し苦労しました。

そして焦げ茶色の大きな文字で、こう書かれていました。

『イツカキットアナタニアイニイクカラ』

なんと表現すればいいのか、形容しにくいですが、油絵絵具のようなもので書かれ、一枚目とはうって変わって、ミミズが這ったような文字でした。血文字のようにも見えました。

さらに中身を見ようと、封筒を斜めにすると、コロコロと何かが転げ落ちてきました。それはもつれて丸まった髪ゴムでした。そしてその髪ゴムには、か細い髪の毛がグルグルと絡み付いていたのです。

私は恐怖を通り越して、目を開けたまま気を失ってしまいました。

手紙は実家近くのお寺で供養していただきました。

お便りの差出人らしき女性は私の前に現れませんが、それ以来、今でもダイレクトメールの封を切るのが怖くてしかたありません。

怖い話投稿:ホラーテラー Y2さん  

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