中編3
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あるおじいさんの最後

職場の先輩から会社の休み時間に聞いた話を投下

だいぶ昔、戦後間もなくのこと、先輩の田舎のおじいさんが亡くなった時の話。

亡くなった原因ははフグの中毒死。夕食に食べたフグにあたってのことだそうだ、

そのときはおじいさんは一人だったらしく、おばあさんが家に帰って来たときにはチアノーゼというのか?

顔が紫で、息もしてなくて、「もうだめだ」っていう状態だったらしい。

翌日に通夜で、その次の日に火葬するということになった。

当時はちゃんとした火葬場などは無く、山奥の焼き場に親族、知人で遺体を焼きに行く。

で、焼けたころに又何人かで骨を取りに行くっていう方式だったんだそうだ。

焼きだしたのが結構遅かったらしく、焼けあがる頃にはもう日も沈むころ。おじいさんの知人の男二人でシャベルと明かりをもって焼き場に向かう。

さあ、骨を拾おうかと作業を始めたが、どうもおかしい。

そこにあるのは棺桶等の灰ばかりで、肝心の骨が全く見当たらなかった。

二人がよくまわりを照らしてみると、地面に灰を引きずったような跡があった。

二人はそのあとを追って進んでみた。その先に・・・

おじいさんがいた。

焼き場からほど無い所の木の下で、あぐらをかいて。全身が赤黒く焼け、半分炭化し、ところどころ骨の見えた姿で・・・

「俺が思うに」先輩が続ける。

「最初に死んだと思ったとき、じいちゃんはまだ生きてたんじゃないかな?仮死状態で、焼かれている途中に、息を吹き返しちまった」

そして焼かれながらもなんとか棺桶からはい出し、その木の下まで行ったところで力尽きた・・・。想像を絶する光景だ。

当時は医学もまだ進んでおらず、ましてや田舎のこと、そういうこともあったのかもしれない。

なんにせよこのままではいけない。一人の男がもう一度焼き場に戻そうとした、その時だ、

「きいいいいさまああ!!!死んでまで人様に迷惑かけるかあああああああああ!!!!」

もう一人の男が持っていたシャベルでおじいさんの体を滅多打ちにしだした。そして焼け場まで、蹴り倒すように運んで行った。

あまりのことに、知人の男はなすすべもなく茫然と見ていることしかできなかったという。

どうやら無くなったおじいさんは、生前金貸しを生業としており、それもそのやり方がかなり悪どく、ご近所さんはおろか、近隣、親族の間でも有名な人だったそうだ。

トチ狂った男も、「これできれいさっぱり縁が切れる」そう思って骨を拾う役を買って出たのかもしれない。

俺が怖かったのは、先輩がこの話を「休憩時間の笑い話」として話したこと。

「なんでこの話を自分が知ってるかっていうと、さっきの、じいちゃんを叩かなかったほうの男が、それから何年かしてから自分が死にそうになったときにとうとうその話を墓場まで持って行けず、ばあちゃんに『実はこうこうこういうことが・・・』って話したんだってよ。

話されたばあちゃんも困っちゃう、と思ったらさ、『私が留守にしとる間にそんないいもん食べるからそうなるんじゃ』だってさ。笑っちゃうよな。

ああっははははははははははははははは」

先輩のさばけた笑いが職場に響き渡った。

もちろん・・・話を聞いた俺を含め、職場の誰一人愛想笑いひとつできなかった。

先輩は、今も営業成績中の上を爆進している。

怖い話投稿:ホラーテラー 修行者さん  

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